ランク Aの下

 

敗戦から15年、大阪・釜ヶ崎(西成あいりん地区)の

 ドヤ(簡易宿泊所)を舞台に、

   強欲婆の女将と家族、宿泊人たちが

     繰り広げる悲喜劇を描く。

 

 

菊田一夫の大ヒット舞台劇を

       映画化した作品です。

 

題名の「がめつい」は、菊田一夫の造語で

  強欲で抜け目のない、ごまかすという「がめる」、

   南河内弁「がみつい(因業な様のこと)」、

    大阪弁で自分勝手の「がんまち」を

       組み合わせたという説などがあります。

 

  (文豪・谷崎潤一郎、笠置シズ子も

     「がみつい」はあるが「がめつい」は無いと

        言っています)

 

この造語「がめつい」は、舞台映画で大ヒットして

  全国に知れ渡り、日本語として定着して

     現在に至っています。

 

大阪の底辺で暮らす貧乏人たちの群像劇です。

 

関西出身、大阪弁が達者な俳優たちの

  大阪弁の掛け合いが、一番の魅力の映画です。

 

何といっても、主役の強欲婆を演じる三益愛子の

  存在感です。

 

主演の三益愛子は、舞台、映画ともに

  出演し、この役が、十八番の役となります。

 

大阪市出身の三益愛子は、女学校を中退し

  劇団に入り、舞台、映画で活躍します。

 

  略奪婚?で作家・川口松太郎と結婚し

    息子の川口浩などは、芸能界で活躍します。

 

  結婚引退しますが、戦後は芸能界へ復帰し

     「母ものシリーズ」映画で人気を博します。

 

この映画は、三益愛子の女優、演劇人としての

    代表作となっています。

 

思えば、映画は、主役は美人というのが相場ですが

  汚く不細工で、金歯をみせながら、

     老婆が活躍するという異色の作品です。

 

  (美人女優?の範疇に入らない

     三益愛子だからこそのはまり役です。

 

  ひょっとしたら、後の樹木希林は

    この三益愛子の演技に

       影響を受けているかもしれません)

 

また、美人局、占い師、エセ傷痍軍人、

  チョゴリを着た朝鮮人夫人、ヒモ、故買屋

    磁石を引きずる金物拾いなど、戦後日本の

      社会の落ちこぼれがたくさん登場します。

 

金のためなら、何でもするような、個性的な

  小悪党ばかりですが、警察権力などへは、

    連帯感を持って対抗する心意気と

      逞しさを持っています。

 

つまり、この映画には、人間の生きる貪欲さの

  エネルギーが溢れています。

 

俳優たちも、嬉々として、演じているのが

     画面からよく分かります。

 

登場人物には、硬軟が必要です。

 

軟の1人は、天才子役と言われた中山千夏です。

 

 

大阪で幼い頃を過ごし、TV、ラジオ、演劇、映画、

  歌手、国会議員と八面六臂の活躍をします。

 

 この映画で、知的障害のある戦災孤児役で

   一躍、全国に知れ渡り、引っ張りだこの

     女優となります。  

 

  (障害者を自由に演じられる

     おおらかさが、昭和にはありました)

 

  アニメ「じゃりン子チエ」のチエの声優です。

 

もう一人は、森繁久彌です。

 

 

他の役柄が、一本調子の単純なキャラに対して

  演じるのが難しい、曲者の詐欺師役で

    演技力の高さを見せつけています。

 

ヒロイン?を演じる草笛光子の

  秘めた美しさが輝いている映画です。

 

 

 横浜生まれですが、大阪弁を違和感なく

  話しているのは、松竹歌劇団出身という

    耳の良さがあると思いました。

 

 どんな役でもこなせる、準?ヒロインをさせたら、

  日本有数の名女優です。

 

 もっと評価され、草笛光子映画祭を

  して欲しい大女優です。

 

 作曲家・芥川也寸志と

   短い結婚生活をおくります。

 

草笛光子演じる元地主の女性を

  誑かすヒモを演じるのは

    ダンディー・森雅之です。

 

 

作家・有島武郎の長男として

  札幌で生まれ、お坊ちゃまとして

    育ちます。

 

 (父・有島武郎は、不倫心中をしたので

    森雅之の演技に、どこか寂しさ、ニヒルさが

       漂っているのかもしれません)       

 

京都大学中退なので、関西弁には

    抵抗が少なかったはずです。

 

ともかくモテてまくり、

  女子遍歴に事欠くことは無かったです。

 

  (羨ましい!!!!!!・・・トホホ、嗚呼)

 

この映画では、遊び人のヒモ役を演じるのですが

  やはり、育ちが出てしまうのか、

     ピッタリとは嵌まっていないような

       少し気がしました。

 

森雅之演じるヒモの情婦を演じる

  ロシアハーフ占い師の安西郷子が

    いい味を出していました。

 

 (ロシア革命の後、多くのロシア人が

   日本へ移住します。

 

  白系ロシアと言われ、差別を受けながら

    日本で足場を築きます。

 

  名横綱・大鵬もその一人です)

 

 

  髪を金髪に染めて、薄幸の女性を

    印象深く演じていました。

 

  エキゾチックな顔立ちが、

    ロシア人ハーフにぴったりと

       嵌まっていました。

 

  荒んだ生活から抜け出そうとする

     女の悲しみを、静かに力強く

          演じていました。

 

  なお、俳優・三橋達也と結婚します。

 

私の大好きな山茶花究、西村晃、多々良純など

  脇役名人が、存在感を発揮しているのが

    嬉しかったです。

 

高島忠夫と団令子のカップル役も

  堅実な手堅い演技をしています。 

 

関西出身の俳優たちが、大阪弁を駆使して

  跳梁跋扈するコテコテの活気にあふれた

    大阪喜劇映画の秀作です。

 

  (個人的には、「寅さん」で代表される

    東京喜劇より、この映画のような

      大阪喜劇が大好きです。

 

  東京物はスマートですが

   大阪物は、泥臭さが魅力です)

 

この映画は、一見、喜劇にみえますが

  実は、戦争の痛手を、しっかりと描いています。

 

焼け跡の土地所有権争い、傷痍軍人、

  朝鮮人問題、白系ロシアなどを

   さりげなく、画面に登場させて

     日本社会から忘れられていっている

       人々の存在を描いています。

 

敗戦後、15年の映画ですが

  まだまだ戦争が、庶民の中に

    残っていた時代です。

 

金に貪欲で、執着する人間達ですが

  戦争に翻弄された人々の

    哀しみと逞しさを描いた秀作です。

 

是非、ご覧ください。

 

大阪喜劇の活気にあふれた名作です。

 

最後に、この映画の隠れた主役は

       通天閣です。

 

日本映画専門チャンネルで観ました。