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強盗殺人犯の共犯者を追って

 東京から刑事二人が

  佐賀県に住む元恋人の張込みをする

    刑事物の傑作です。

 

 (この映画の後

   何度も再映画化、TVドラマ化

     されました)

 

 

冒頭の、横浜駅から佐賀駅までの

  夜行長距離列車のシーンは

    日本映画史の名シーンです。

 

  (主役の刑事を演じる大木実が

    実際に、列車に飛び乗るシーンは

      一発で撮影OKになったそうです。

 

  この長い列車旅の撮影のために

    客車を1両連結して、

      東京から佐賀まで

        スタッフがエキストラを兼ねて

          撮影したそうです。

 

    その結果、リアル感たっぷりの

    列車内が撮影され、

     張込みに向かう刑事たちの

      苦労と緊張感が高まってきます)

 

この映画は、刑事物ではあるけれど

  東京から佐賀へ張込みに行くという

    ロードムービー映画でもあります。

 

佐賀県の街並み、祭り、温泉街など

  たっぷりと風土、風物を描いているのも

    この映画の魅力です。

 

昭和33年の制作と、70年近く前の映画ですが

  まったく古さを感じさせられない映画です。

 

つまり、名作、傑作と言われる映画は、

  時代を超越して、

    観客の時代に息づいています。

 

いつ観ても、どこで観ても、誰が観ても、

    面白いのが名作なのです。

 

刑事という仕事、張込みという仕事に

  忍耐力がいるのがよく分かります。

 

  (原作・松本清張と脚本・橋本忍は

    映画化時に、警視庁を訪問し、

      警視庁の全面協力を得た。

 

  監督の野村芳太郎と、

   新人だった助監督だったので

    クレジットには載らなかった山田洋次は、

      松本清張の口利きで

        深川署の殺人担当刑事と

          何日間か一緒に過ごし

            取材したそうです。

 

  山田洋次は「監督の才能が無い」と言われ

    野村監督に相談したら、

      「シナリオを書け」と言われ、

        この映画の縁で、

         橋本忍に弟子入りします。

 

  後に、松本・野村コンビの名作「砂の器」では

    脚本は、橋本忍と山田洋次です。)

 

この映画は、

 佐賀までの長い列車の旅、

  単調ではあるが、緊張感が必要な

  バレてはいけない忍耐強い張込み、

   犯人が現れたら、臨機応変な対応し

    危険が無いように逮捕する。

 

この映画は、列車移動の暑い真夏の旅、

  張込みのいくつかのエピソード

    恋人を追って犯人捜索の苦難

      逮捕の哀しみ

 

これらのメインストーリーの間に

  独身刑事の恋愛模様

   犯人の東京暮らしの絶望

     ヒロインである恋人の

       味気ない希望のない家庭生活

         を挿入しています。

 

そして、佐賀県の風物を巧みい取り入れて

  派手な都会と地方の対比とギャップを

    浮かび上がらせています。

              

そして、何よりも、ヒロインの生き方を通して

  女性の本当の幸せとは何なのか?

 

刑事物の男性映画でありながら

  女性映画となっているところが

     この映画の魅力となっています。

 

敗戦後10年以上たっても、

 憲法の男女同権、女性解放と言われながら

  現実的には、この映画のように

   妻は、収入を稼ぐ夫をたてて尽くし、

     子供のためなら恥を忍び、

       少ない収入で家計をやりくりして守り、

         女の幸せは結婚、家庭であると

            自分に言い聞かせて

              耐え忍んで生きるという

   戦前の家父長制、封建制は、日本社会に

     厳然と残っていることを描いています。

 

今でも、旧統一教会、日本会議、

  自民党などの右派が理想とする

   家庭像と母親像が

    この映画のヒロインの家庭なのです。

 

この映画は、フェミニズムを描いた描いています。

 

ゆえに、刑事物という男性向けと

  フェミニズムという女性向けという

    2つの側面を持っているため

      男女問わず、広く受け入れられ

        傑作となった映画となりました。

 

刑事物のキーポイントは

  地道な捜査をするリアル感です。

 

 

ベテラン刑事役を演じる宮口精二が

 さりげない演技で、刑事の実在感を

   高めています。

 

 

宮口精二は、東京の大工の家に生まれ

 「同じ貧乏をするなら、自分の好きな道で」

   と役者を志しました。

 

 (宮口精二といえば「七人の侍」が有名ですが

   実は「生きる」で、ワンカットだけ

    科白なしのヤクザの親分役が

      最高の演技だという説があります)

 

名優とは、「演技をしない演技」をします。

 

 (今の日本の俳優たちは

   「演技をしている演技」をするので

     観ていて、白けてきます。

 

  「演技をしているぞ!」

    という演技をしてる内は素人で、

      観客を感動させることはできません)

 

この映画には、名脇役たちが

  自然な上手い演技で、

    映画に現実感を高めています。

 

ベテラン刑事の妻役・菅井きん

  旅館の女将役・渡辺粂子

    佐賀署の刑事役・多々良純など

      名脇役揃いです。

 

 (俳優を志す人は、

   昭和20年~40年までの

     名俳優の演技を勉強すべきです)

 

女中を演じる小田切みきも、いつもの天真爛漫な

  上手い演技をしています。

 

  

  小田切みきは

     黒澤明「生きる」のとよ役で

       最高の演技をします。

 

  とよの明るさが、「生きる」を

    体現していると思います。

 

   とよ役は、小田切と名女優・左幸子が

     最終選考に残りましたが、

       黒澤は小田切を選びました)

 

若い?刑事役を演じたのは

  すでにベテランだった大木実です。

 

 

 大阪の高校を卒業後、日活撮影所で10年間

   照明助手として働いていたところ

     大女優・木暮実千代の推薦で

       俳優になったという変わり種?です。

 

  デビュー後は、映画、TVドラマ、時代劇で

    主役、脇役で大活躍します。

 

薄幸な妻であり元恋人を演じるのは

  名女優の高峰秀子です。

 

心の内に秘めた燃え上がる女心を持つ女を

  演じています。

 

何といっても、田村高廣演じる元恋人との

  別れのラストシーンでは、

    浴衣を着替えるだけなのですが

      逃げ出せそうもない宿命を

        受け入れるしかない女性の

          哀しみを背中で演じていました。

 

  (田村高廣は、純朴で不器用な青年を

     上手く演じています)

 

この温泉宿のシーンも、名シーンだと思います。

 

  (縁側の欄干に置いた僅かばかりのお金は

     どうなったのだろうか?

 

   元のケチな銀行員の亭主がいて

    生活するだけの家庭へ戻ったのだろうか?)

 

なお、名シーンと言えば、

  雨の中を、ヒロインを追い、

    下駄の鼻緒が切れたシーンも良かった。

 

 (まさかとは思いますが

   黒澤明「姿三四郎」のオマージュでは

     ないかと・・・)

 

この映画は、オープニングの列車シーンだけでなく

  バスに乗ったヒロインをタクシーで追いかける

    シーンを長く描いて、緊張感を高めるという

      上手い計算された演出がされています。

 

監督・野村芳太郎は、この映画で

  B級監督から、特にサスペンスの

    名監督へと成長していきます。

 

 

 父親は松竹撮影所長だったという

  映画界のサラブレッドです。

 

 慶応大学卒業後、松竹入社、兵役復員後、

  黒澤明「醜聞」「白痴」の助監督を務め

    黒澤から「日本一の助監督」と

      言われました。

 

 時代劇から喜劇まで、あらゆるジャンルを

  職人技で監督しました。

 

 推理小説が大好きで、弟子には山田洋次

  森崎東などいました。

 

 スピード狂で、野村が運転する車には

  誰も同乗しなかったそうです。

 

張込みという地味な題材なのに

  濃厚な人間ドラマがある

    傑作となっています。

 

高度成長が始まり、大きく変わっていく

 日本社会で、淘汰されていく犯人のような

  若者の社会問題も描きながら、

   佐賀という地方の良さも描くという

     娯楽作品の傑作となっています。

 

ほんまに良い映画です。

 

この映画は、シナリオ作家、監督志望は

  必見の映画です。

 

  (隅から隅まで分析しないといけません)

 

是非、ご覧ください。

 

古き良き美しい日本が、

  スクリーンの中で

    息づいている映画です。

 

  (失われた昭和があります・・・嗚呼)

 

最後に、刑事物の映画の傑作と言えば

  黒澤明「野良犬」があります。

 

是非、ご覧ください。

 

なお、海外では、

  アメリカ映画「目撃者 ジョン・ブック」も

    傑作ですよ。

 

 

名作、傑作は、時代を超えた

  人間ドラマと社会問題を描いています。

 

最後に、「張込み」の佐賀ロケ撮影は

 見学者が1万人も押しかけたりして、

   警察が撮影中止を要請したりと

     大変だったそうです。

 

また、野村監督も、本社の命令をきかず

  納得するまで長期撮影をして、

    城戸松竹社長が大激怒したとか。

 

原作者の松本清張は、

  原作より良くなっていると褒めたそうです。

 

特に、オープニングの列車に飛び乗るシーンを

  素晴らしいと言ったそうな・・・

 

是非、ご覧ください。