ランク Bの上~Aの下

 

原爆開発・マンハッタン計画の責任者となった

 科学者オッペンハイマーの思想と行動を

   考察した映画です。

 

 

科学者、軍人、政治家など

 数多くの登場人物が絡むうえに、

  過去(カラー)と現在(白黒)が

   交錯して物語が進行するので

     混乱します。

 

 (私は、大学理系出身で

   多少、知識があるので、

     へぇーと思いながら観たのですが

       文系の妻は、チンプンカンプンで

         面白いとは思えなかったようです。

 

 まったく何の知識もない人が観ると

   どこが面白いのか?

     分からないかもしれません。)    

 

この映画を理解するためには

 オッペンハイマーの人生を

   事前に知ってくことが大切です。

 

 

1904年 ニューヨーク生まれのドイツ移民の

      ユダヤ人

 

  ハーバード大学を3年で主席卒業

 

  イギリス・ケンブリッジ大学で、

   ニールス・ボーア(量子論)に出会い

    理論物理学者の道に進む

 

  ドイツ・ゲッチンゲン大学で博士号取得

 

1928年 アメリカの大学助教授

 

1936年 教授となる(愛称は「オッピー」)

 

1942年 原爆製造のマンハッタン計画始動

 

1943年 マンハッタン計画の

       ロスアラモス研究所の所長となり

         原爆製造を主導する。

 

    * シュバリエ事件

       オッペンハイマーの友人シュバリエが

       ソ連へ情報を連絡することができると

       オッペンハイマーに伝える

 

1945年 7/16 世界初の原爆実験

          「トリニティー(三体)計画」

          (プルトニウム型原爆)

 

      8月 広島、長崎原爆投下

 

      ヒロシマ型原爆(ウランを原料)

          ”「リトルボーイ”

      

    

      ナガサキ型原爆(プルトニウム)

           ”ファットマン”

      

 

      10月 トルーマンアメリカ大統領と

          面会

 

       オッペンハイマーは「原爆の父」に

 

1946年 オッペンハイマーは、FBIから

      シュバリエ事件の聴取を受けるが

      曖昧な証言をしたために、

      後のオッペンハイマー事件で

       追求される。      

 

1947~66年 アインシュタインがいた

         プリンストン高等研究所の所長

 

1949年 ソ連原爆実験成功

 

      アメリカ想定以上の早さの原爆成功で

      アメリカ政府は動揺し、

      ソ連スパイ暗躍調査が本格化      
  

  オッペンハイマーは、

   広島長崎の惨状を知ったことと

    原爆・核兵器の脅威から

     核軍縮とソ連との核競争の阻止に活動

 

  元同僚科学者・テラーの水爆開発に反対

 

     原爆は、核分裂エネルギーを使います。

            (原子力発電所です)      

 

     水爆は、核融合(水素原子をくっつける)

       エネルギーで、太陽と同じ原理です。

 

       (核融合発電所が作れたら

         エネルギー問題は解決?

           するかもしれませんが・・・)

 

1950年代 マッカーシー旋風・赤狩り

       上院議員マッカーシーによる

       共産党系関係者の訴追、追求が始まり

       あらゆる分野で、公職追放が起こる。

 

1954年3月 ビキニ環礁で、

          アメリカ水爆実験成功

 

        (テラーは「水爆の父」に)

   

      日本漁船・第5福竜丸船員が被爆        

 

1954年 オッペンハイマー事件

      政府の核兵器コンサルタントだったが

      ソ連スパイと疑われたオッペンハイマーを

      国家安全保障・機密情報アクセス権を

      はく奪し、公職追放した。

 

      オッペンハイマーの妻、恋人、弟夫婦が

      共産党関係者であり、本人も

      共産党系集会へ参加していたことも

      影響していた。

 

1961年 ソ連水爆事件成功

 

これらの事件が、映画で描かれていますので

  複雑怪奇となっています。

 

一言でいえば、オッペンハイマーが

  機密保持違反で原子力員会から追及される

    過程を映画化したものです。

 

この映画で悪役となるのは、ストラウスです。

 

ストラウスは、プリンストン高等研究所の

  所長になりたかったが、人気がなくて

    オッペンハイマーを招聘した。

 

ストラウスは、水爆開発推進、

  オッペンハイマーは、反対

 

原子力員会の委員長だったストラウスは、

 医療用同位体輸出でオッペンハイマーから

  馬鹿にされたことや、

   オッペンハイマーの女性関係や

     ユダヤ人偏見などから、

      オッペンハイマーを嫌っていました。

 

オッペンハイマー事件は、ストラウスによる

  しっぺ返しでした。

 

ストラウスは、出世志向が強く、

 商務長官を目指しますが、

   ケネディなどの反対でなれませんでした。

 

この映画のメインは、オッペンハイマーですが

  悪役ストラウスが、主役かもしれません。

 

映画内での、政治的なやり取りは

  日本人にはよく分からない事ばかりですが、

     細かいことは気にせず、

 悪代官にイジメられるオッペンハイマーと

   思って観て下さい。

 

この映画で、私が一番面白く感じたのは

  原爆初実験「トリニティ計画」の

   詳細な再現映像でした。

 

  (不謹慎ですが、きのこ雲のCGは

     よくできていて、ゴジラ-1.0より

        素晴らしかったと思ったのですが・・・)

 

タップリ金をかけて、

 時代考証に凝った映画は

  それだけで観る価値があります。

 

この映画のテーマは、

  科学と軍事利用の問題です。

 

科学の進歩は、新兵器の開発に

  直結します。

 

核兵器と言う悪魔の子供を育てた

  オッペンハイマーは、

    自分の道義的責任と歴史的責任を

      痛感しました。

 

しかし、いったん科学者の手から離れたら

  政治の世界が支配します。

 

  (ドローンが、ウクライナで

    あれほど活躍する兵器になるとは

      思っていなかったと思いますが

        発明者は、すぐに

          軍事利用に使えると、

            気付いていたかも・・・)

 

この映画の日本公開が遅れたのは、

  反ひろしま映画だと思われたからの

    ようですが、

       まったく違います。

 

反核、反戦映画の要素があります。

 

「トリニティ」実験後のシーンを観たら

     よく分かります。

 

  (黒こげ死体を踏む幻想とか、

    水爆論者テラーを、批判的に

     描いています。)

 

一方では、科学者の宿命を描いています。

 

自分の理論が、本当に正しいのかどうかを

  実験したいという科学者の本能です。

 

  (核分裂の連鎖反応「核爆発」が

    起こるのかどうか・・・)

 

女好きのオッペンハイマーは、

  目立ちたがりというか、お山の大将が

    好きだったと思います。

 

この意味では、対立したストラウスとは

  似た者同士の反発だったかもしれません。

 

原爆開発でスターになったオッペンハイマーに

  ストラウスは、嫉妬してしまったのです・・・たぶん

 

この映画では、広島、長崎原爆投下について、

  もっともポピュラーな説を採用していました。

 

ハリウッドが強いのは

  自国の恥部?を、しっかりと映画化している

     ところです。

 

日本のメジャーな映画、ドラマ界では

   製作不可能な映画内容です。

 

  (左右両派からクレームが来そうな内容を

    映像化できる力は、日本にはありません)

 

妄想世界?の映像化と、過去と進行形現在の

 場面展開が頻繁にある上に、

  諮問委員会などの裁判劇があるので

   分かりにくい映画構成となっています。

 

科学、法律などの専門用語も多いし、

 アメリカ法律関連内容もタップリあるので

  すべてを理解するのは不可能です。

 

 (アメリカ人でも難しい気がします。

  

  1950年代と言えば、アメリカ人の

     「時代劇」かも・・・)

 

ひょっとしたら、この映画は、

  現代社会の比喩になっているかもしれません。

 

つまり、映画の原爆が、現代のAIとドローンであり

  その使い方で、

    人類の未来が左右されてしまう危険性が

      あることを警鐘しているのです。

 

AIの進歩が、人類社会を変えてしまう。

 

オッペンハイマーの罪悪感は

  今も続いているということです。

 

この堅い映画をアカデミー賞受賞させた

  アメリカ人は、どう思っているのでしょうか?

 

映画の中で、原爆投下の必然性、正当性が

  語られるシーンがあります。

 

たぶん、多くのアメリカ人観客は

 この映画の観て、

   * 原爆開発は正しかった

   * 原爆投下は正しかった

      と思い、

 プーチンのウクライナでの原爆使用は

  広島長崎被爆のような悲劇を生むから

   絶対に許してはならないと

     考える気がします。

 

そして、共産主義弾圧したマッカーシー旋風の

  反省が生まれる気もします。

 

  (表現、言論弾圧を含めてですが・・・)  

 

この映画の主役は、原爆です。

 

原爆に魅入られ、翻弄された人々の

  映画です。  

 

AIなどの科学進歩の危険性を

   警告している映画です。

 

話題の映画ですから、ご覧ください。

 

  (事前に核開発歴史を学習してから

    観た方がいいと思います。)

 

オッペンハイマーは、1960年、来日して、

  日本人教え子に会い、

    弔意を表したようですが

     広島、長崎へは訪問しませんでした。

 

1965年 オッペンハイマーは咽頭がんで死去します。

   (原爆開発で放射線を浴びたこともあるかも・・・)

 

死去の2年前の発言では、原爆開発について

   「大義があったと信じている。しかし、

     科学者として自然について研究する

     ことから逸脱して、人類の歴史の流れを

      変えてしまった。私には答えがない」

 

最後に、核兵器ですが、

  プーチンがウクライナで1発使用すれば

    ウクライナは降参します。

 

しかし、プーチンは、核兵器の使用を

  出来ないでいますし、しないでしょう。

 

核兵器を戦争で使用したら

  全世界の犯罪者となり、世界から

    ロシアは見捨てられるはずです。

 

つまり、核兵器は、使用できない兵器です。

 

核兵器があるから抑止力なるというのは嘘で

 核兵器が使用できない兵器であることを

  ウクライナ戦争は証明しています。

 

いわんや、北朝鮮などの核兵器も同じです。

 

北朝鮮が核兵器を使用したら

  北朝鮮は破滅します。

 

核兵器があろうが、無かろうが

  戦争は起こりえるのです。

 

核兵器を使う決断は、

  その国のトップだけが決定できます。

 

  (いくら取り巻きが核使用を進言しても

     トップの決断で決まります。)

 

日本が核武装しても

  中国が尖閣列島、沖縄へ上陸しても

    台湾へ侵攻しても

     日米政府が核兵器が使えないことを

       中国政府は分かっているはずです。

 

核抑止力は、幻想であるというのが

  私の考えです。

 

核兵器があるから戦争が起こらないのではなく

  核兵器に関係なく戦争は起きています。

 

イスラエルも核兵器保有国なのに

  ガザに使うことはできないのです。

 

各国が核兵器を持ちたがるのは

  たんなる一等国の勲章であり、

    核兵器産業を育てるためだとしか

      思えないのです。

 

ただし、プーチンが血迷って

  核兵器使用を命令するかもしれませんが

     軍人が止めるかもしれません・・・。

 

核保有国のトップが、

  正常な判断ができることを

    できることを願うばかりです。