ランク Aの下~Aの中

 

阿蘇の大地主の息子が、

 恋人のいる美しい小作の娘を

  強姦して夫婦となるが、

    旧弊の中で家族をなし

      幸せを見失う不幸を

         描いた名作です。

 

 

久し振りに、骨太な人間ドラマを観ました。

 

美しい阿蘇山、草千里の映像に

    心が奪われます。

 

夢を踏みにじられたヒロインが

  憎しみを抱いて妻になるしかなった、

    戦前の家父長制度の悲劇を描いています。

 

美しい風景の中で

  人間のエゴと愛憎が繰り広げられる

     ギャップに圧倒されます。

 

最初は、違和感でしかなった

 フラメンコギターが奏でる曲と歌が、

   物語の進行とともに受け入れられてゆき

     映画と一体化していきます。

 

旧態依然の農村風景に

   フラメンコギターという取り合わせ、発想は

     どこで生まれたのだろうか?

       不思議です。

 

大胆な音楽演出に驚かされるのと同時に

  この妙技の上手さは、出色であり

    この映画の魅力となっています。

 

  (西洋のフラメンコの歌と言うより、

     浄瑠璃などの語りの趣があります)

 

映画は、昭和7年、19年、24年、35年の

  ヒロインの人生エピソードを描きながら

    進行します。

 

何といっても、ヒロインを演じた高峰秀子の

   一、二を争う名演技だと思いました。

 

強姦した男を、夫として受け入れながら

  絶対に許せない憎悪を抱き

    あからさまに夫や家族にぶつけるしかない

       苦悩を、見事に演じています。

 

「目だけで演技ができる」

 

表情もありますが、目で演技ができれば

  一流の俳優です。

 

高峰秀子は、目で、役の心の

   多様な動きを演じています。

 

戦前の家父長制度や地主と小作の封建身分制度の

  悪習、悪幣を、残酷に描き

    批判?しています。

 

  (見方によっては、フェミニズム映画とも

      言えます)

 

ヒロインをめぐり、二人の男が登場します。

 

仲代達矢演じる夫は

  男振りの良かったヒロインの恋人への

   嫉妬、妬みを持っていながら

     戦地で障害者となって帰還して

       その押さえつけられない激情と

         恋心からヒロインを強姦します。

 

いつものように、大きな目を剥きながら

  演技をする仲代達矢です。

 

その大きな目のために、

  表情がパターン化してしまうという

    ハンディーがあると思ってしまいます。

 

ゆえに、とても上手い演技とは

  みえないのです。
 

この映画の役どころは、

  複雑な感情を持ってしまう若旦那の

     キャラを如何に演じるかです。

 

標準点以上の演技ではあるのですが

  高峰秀子や他の役者の演技力が

    目立ってしまっていました。

 

  (学生時代に、演劇部の友人がいました。

 

  私  「仲代達矢の演技って

        上手いと思えないのだが・・・」

 

  友人 「映画より、舞台の方が

        輝く役者なんだよなあ・・・」

 

  言われてみて、納得が行きました。

 

  でも、仲代達矢の舞台って

    私は観たことが無いのです・・・嗚呼))

 

この映画で、一番、輝いていたのは

  長男演じる田村正和です。

 

この映画が、実質的な映画デビューなのですが

  繊細で、出生の秘密に苦悩する

    美少年の哀しみを見事に表現していました。

 

初々しくて、アイドル俳優になれた理由が、

  よく分かります。

 

この映画で、世の女性を泣かせたと思います。 

 

 (なお、噴火口でよく撮影したものです。

 

    命がけだったはずです・・・たぶん)
 

下の画面の右から、高峰秀子、田村正和、

  左端が仲代達矢です。

 

 

老人役を演じさせたら、笠智衆と並び、

 日本一、二の名優は、ヒロインの父親を演じる

   加藤嘉です。

 

1度目の結婚では、新橋の芸者見習いと上海へ駆け落ち、

 3度目では、大女優・山田五十鈴と結婚したりと

   4度の結婚、離婚をする超モテ男でした。

 

 

この映画で、ヒロインの対抗馬として

  ヒロインの初恋相手の妻を演じる

    乙羽信子です。 

 

幸薄い妻を、的確に演じています。

 

 (庄屋に入って、ヒロイン高峰との

    確執の演技は、見物です)

   

 

なお、乙羽信子は宝塚歌劇出身で

  後に、22歳差の脚本・監督の新藤兼人を

    不倫、略奪婚します。

 

 

庄屋の大旦那の、下衆なやらしさを

  発揮して渋い演技を見せたのは

    永田靖です。

 

 

移動演劇隊「桜隊」の一員で

     広島原爆被爆をします。

 

 下図写真の9名が、被爆死をします。

 

 (この写真1945年1月に

   9名全員が写っているはるですが・・・)

 

 

木下恵介監督です。

 

 

キスとベッドシーンが撮影しなかった?

  という伝説があります。

 

 (何本か見たことことはあるのですが

   確かに、観た範囲では無かったです)

 

裕福な漬物屋に生まれていながら

  漬物が大嫌いで、食卓に漬物があると

    癇癪を起して撮影をしなかったとか・・・。

 

入籍しない短い結婚(性関係なし)が

 あったようですが

  一生独身で、ホモセクシャリティだった

    そうです。

 

 (まさかとは思うのですが

   美少年・田村正和が

      この映画の主役だったりして・・・)

 

黒澤明と双璧を為す大監督なのですが

  黒澤ほどの大見得、ダイナミックさが少ないために、

    評価が上がらなかったですが

      女性物で、観客を泣かせるのは

        天下一品でした。

 

黒澤が男性的なら、木下は女性的と

  いえる作風です。

 

 (映画の娯楽性や映画らしさは、

     黒澤が上かもしれませんが・・・)

 

阿蘇の美しさを背景に、

  人間の生臭い欲望、計算高さを

     描いています。

 

そして、監督が生きてきた昭和を描いています。

 

自分の大漬物屋の生家をモデルに

    映画化したのかもしれません。

 

  (まさか、実体験ではないと思いますが、

     よく似たケースを見聞しているはずです)

 

旧弊、旧態依然とした醜悪な家父長制で

  女性たちが苦労する姿を描いています。

 

さらに、戦争が引き起こした悲劇を描くという

  反戦的要素も多分に持っている映画です。

 

傷痍軍人を主人公の一人にするという映画です。

 

 (巷には、たくさんの傷痍軍人が、街角で

    物乞いをしていた時代に制作されました)

 

ひょとしたら、この映画の主役は

  仲代達矢演じる若旦那だったかもしれません。

 

 (ヒロインの元恋人役が、大胆な行動ができず

   軟弱?だったのが気になったのですが

     田舎の村社会で生き続ける宿命が

       あったためかもしれません)     

 

戦争で傷ついた男が

  女の人生を狂わせるのです。

 

そして、いがみ合うことになった夫婦が

 それぞれの罪を許し合う?までを

   描いた大メロドラマかもしれません。

 

ドロドロした救いの少ない人間ドラマが

  演じられます。

 

ラストシーンでは、傷つけあった夫婦が

  どうなっていくかは、観客に委ねられます。

 

この映画に描かれた世界は、

  「時代劇」の範疇に入ってしまいます。

 

この映画が上映された時は

  多くの日本人は、この世界を知っており

    懐かしくもあり、同情もうまれたことでしょう。

 

しかし、今の若者に、この映画の魅力を

  理解させるのは、難しいかもしれません。

 

否、親が子供たちを平等に愛せないことが

   あることを伝えている映画です。

 

親は、子供を平等に愛そうするが

  できなことがあるという現実を

     描いている映画です。

 

ところで、そもそも題名にある「永遠の人」とは

  誰のことなのでしょうか?

 

ヒロインの元恋人か?ヒロインか?を

   一番に思い浮かべるのですが

       私は、田村正和演じる次男の

          ような気がするのは、

             穿ち過ぎか・・・。

 

よくできた、いい映画です。

 

木下監督が、ここまで、人間の心の奥底を

  描いているのには驚かされました。

 

どちらかというと、ヒューマンな、

  希望のある映画ばかりと思っていたのですが

    こんなドロドロした人間ドラマを

      映画化していたとは・・・。

 

多くの人が、結婚して、子供を作り

     家庭を築く・・・。

 

本当に、それが幸せなのか?

    問うた映画かもしれません。

 

是非、ご覧ください。

 

最後に、この映画は、1962年

  アカデミー外国映画賞に

    ノミネートされました。

 

黒澤より、日本人と日本を描いたのが

  木下恵介監督でした。

 

なお、この映画、何度も観ないと

  本当の映画の意味を

     理解できない気がします。

 

  (でも、何度も見るだけの時間が

    無いんだようなあ・・・トホホ

 

  観ていない映画が多すぎるから・・・トホホ)