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敗戦直後に、一世風靡した

 天才落語家・三遊亭歌笑の人生を

  映画化した作品です。

 

 

この映画を観るまで、まったく

  三遊亭歌笑という落語家を

     知りませんでした。

 

 (なぜ、現在、あまり知らていないかは

   映画を観れば分かりますが・・・)

 

渥美清が演じいるのが、

         三遊亭歌笑です。

 

 (どことなく似ているような・・・) 

 

 

三遊亭歌笑 1916年 東京都あきる野市に生まれる

 

     極度の斜視と弱視、えらの張った顔で

      いじめられる。

 

  映画に登場する歌笑純情詩集の

    「おいたちの記」では

 

     我、垂乳根たらちねの胎内よりいでし頃は
     長谷川一夫も遠く及ばざる

     眉目秀麗なる男の子なりし
     世の変わりともともに我が美貌も一変し
     今や往年のスクリーン
     フランケンシュタイン第二世の再現を

     思わせる如く豹変せり
     されど我を育みしふるさとは
     都を離れること三十五里
     南奥多摩絶景の地なり

 

     徴兵検査の視力検査で丙種合格で

       徴兵されず

 

   (この映画で描かれているように

      当時は、甲種合格で一人前の男として

         認められた)

 

    国のお役に立たない?と思ったか

     いたたまれなく、失望して

       好きだった落語家の道を目指して上京

 

  1937年 三遊亭金馬の弟子になり、金平となる

 

    (映画のように、柳家金語楼と春風亭柳橋に

       入門を断られている)

 

  1941年 二つ目昇進し、三代目三遊亭歌笑となる

 

    結婚、召集、除隊して、敗戦となる。

 

    歌笑純情詩集より、戦後の銀座を

 

      銀座チャラチャラ人通り
      赤青緑とりどりの
      着物が風にゆれている
      きれいなきれいな奥さんが
      ダイヤかガラスか知らねども
      指輪をキラキラさせながら
      ツーンとすまして歩いてる

 

  1947年 真打昇進、ラジオ出演で

           一世風靡の大人気者に

 

       「爆笑王」「笑いの水爆」と呼ばれる

 

     (柳家小さん、桂米丸などの若手落語家に

       多大な影響を与える)

 

  1950年 大宅壮一と対談後の夕方

        銀座松坂屋の前の道路を横断中

        米軍ジープに轢かれて事故死

 

        享年 30歳         

 

    (少年期の立川談志は、

     歌笑の死を知って、初めて他人のために

       泣いたとか・・・)

 

映画は、歌笑の人生を描きながら

    脚色されています。

 

戦前から戦後の混乱期までの昭和史を

  たどります。

 

昭和38年の作品ですから

 多くの戦争体験者が、この映画を観ながら

   自身の戦争体験を思い出したはずです。

 

一方では、日米安保後の、日本の再軍備や

  軍国主義復活、安全保障いついて、

    議論が活発な時代でした。

 

この映画は、日本現代史にシンクロさせながら

  反戦を訴えている映画でもあります。

 

佐藤慶演じる先輩落語家エピソード、

  敗戦後の闇市、パンパンや担ぎ屋など

    戦争の傷跡をしっかりと描いています。

 

さり気なく、戦災孤児もしっかりと

         画面に登場させています。

 

  (戦中、敗戦後の記憶が

    多くのスタッフ、関係者にあり、

      闇市なんか、お金をかけて

         よく再現されていると思いました)

 

一方では、落語界の師弟関係、封建制度など

  時代遅れのしきたりを批判しています。

 

渥美清の熱演が目立つ作品です。

 

たぶん、渥美清は、生の歌笑を

  見聞きしているがゆえに

    歌笑を演じ切れない歯がゆさが

      あったと思います。

 

 (私は、渥美清の名演は

   「黄色いハンカチ」の

     警察署長役だと思っています)

 

監督は沢島忠で

  東映の時代劇、美空ひばり映画、

    任侠映画のベテラン監督です。

 

  (美空ひばりは、終生、沢島監督を

     映画、舞台で起用します。

 

   有名監督のスクリプターと大恋愛となり

     ヤクザの親分までが登場するという

       大騒動になりましたが、

          結婚を貫きました)

 

 

若い頃の三田佳子が新鮮な

  演技をしていました。

 

先輩落語家を演じた若き佐藤慶も

  徴兵忌避をする哀しさを

    静かに演じる上手さがありました。

 

 (渥美清も佐藤慶も

    落語の猛練習をして

       撮影に臨んでいるはずです)

 

この映画が、単調な伝記映画にならなかったのは

  主人公の敵役を演じた五代目春風亭柳朝です。

 

渥美清以上の名演技をします。

 

 

主人公の母親役で清川虹子が、

 落ち着いた演技で出演しています。

 

女優・貞奴の最後の弟子で

  喜劇女優、脇役で活躍します。

 

なお、映画「楢山節考」で、70歳の初ヌードになり

        話題になります。

 

 

時代に翻弄される庶民を描きながら

  戦争反対、平和を訴えている反戦映画です。

 

この映画のもう一つのテーマとして

  歌笑の「歌笑純情詩集」が

    映画内で語られます。

 

監督をはじめ、スタッフ、キャストは

    ラジオで詩集を聞いたはずです。

 

歌笑は、読書家で、読書好きだったようです。

 

映画は、職人技で、落語界を描いています。

 

敗戦後、18年ですので

  戦後の焼け跡はほとんどなくなっている頃なので

    監督は、もう一度、焼け跡があったことを

      訴えているように、画面から感じました。

 

素直な映画です。

 

ラストシーンは、斜陽化し始めた映画界が

 テレビに奪われてる現状を描いています。

 

是非、ご覧ください。

 

今なら、YouTubeで、フル映画を観ることができます。