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第2次大戦初期に、ソ連軍による

 ポーランド将校大量虐殺事件で、

   唯一の女性犠牲者ヤニナと

     その周りの人々の人生を

       ルポルタージュし、記録した

          ノンフィクション・ドキュメントです。

 

     

 

1939年、ヒトラーのポーランド侵攻で

    第2次世界大戦が始まりました。

 

 

この時、独ソ不可侵条約を締結していた

  ソ連もポーランドへ侵攻し、

    独ソで、ポーランドを分割占領しました。

 

 (ゆえに、ポーランド人は、

   カティンの森事件や戦後のソ連支配などから

     ソ連=ロシアが今も大嫌いです)

 

左2人はドイツ兵、左2人はソ連兵で

  ヴィスワ川等で独ソ両軍が出会い

     将校同士が握手している写真です。

 

  (この約2年後に、ドイツがソ連に侵攻し

     独ソ戦が始まります。)

  

 

多くのポーランド兵が捕虜となり

  ソ連軍は、ポーランド将校だけを選別、収容し

    カティンの森で、2万人以上を

      処刑、虐殺しました。

 

  (兵士だけでなく、警官、公務員、聖職者も)

 

 

この犠牲者の中に、ただ一人の女性パイロット

  ヤニナ・レヴァンドフスカがいました。

 

 

ヤニナは、第1次大戦後のポーランド独立時に

  ポーランド軍を創設したムシニツキ将軍の

    長女です。

 

 

ムシニツキ将軍は、ポーランド貴族出身で

 ロシア帝国軍で日露戦争を戦い、

  ロシア革命後は、ポーランドへ帰国し

    ポーランド軍を創建した。

 

  (立派な領主として、

     領民から尊敬されますが、

   二人の息子のうち、一人は家を出て

     フランスへ渡り、もう一人は自殺します。

 

   立派な父親の息子は、

     父親の期待に苦しむ宿命が

          あるようです)        

 

偉大な父の元に生まれたヤニナは

  母亡き後、長女として、弟、妹の世話をし

    父に反発しながらも、憧れの

       パイロットになりす。

 

  (この本を読んで初めて知ったのですが

    第1次大戦後のポーランドで

      飛行機ブームが起きていたことに 

         驚きました)

 

ドイツのポーランド侵攻で、パイロットとして

  徴兵されましたが、戦うことなく

    ソ連軍の捕虜になりました。

 

そして、カティンの森で、23歳で、処刑されます。

 

  (カティンはロシア西部スモレンスクの近郊)

 

1941年 NKVD(ソ連内部人民委員部)長官

       ベリヤがスターリンに虐殺提案し

         許可を得る

 

   4~5月 カティンの森で、ポーランド将校

         2万2000~2万5000人を

         処刑、虐殺する

 

     6月 独ソ戦が始まる

 

1943年2月 ドイツが、虐殺現場を発見

 

     4月 ポーランド赤十字社、中立国記者などによる

        第1次調査が行われ、約4500体の遺体を

        発掘し、大々的にドイツは

        「ソ連の犯行」だと宣伝する。

 

        (ドイツ側の記録映画が

          YouTubeで観ることができますが・・・)

 

        ソ連は、ドイツのでっち上げだと大反論

 

        (ソ連側は、虐殺時に、ドイツの犯行だと

          みせかける偽装工作をするのですが、

            この本を読むと、このからくりが

              分かります)

 

    10月 スモレンスクを占領したソ連軍が

        再調査し、ドイツ軍の仕業であると発表

 

1945年 戦後のニュールンベルグ裁判で、ドイツ軍による

      犯行によると告発されたが、証拠不十分で

      不起訴となる。

 

冷戦時代となり、ソ連社会主義圏に組み込まれた

 ポーランドでは、「カティンの森事件」はタブーとなり

   歴史の闇に閉じ込められます。

 

 (「カティンの森事件」は、各国の政治的駆け引きの

   対象となり、真相解明が曖昧になります)

 

1990年 ソ連崩壊後の情報公開で

      事件のソ連側書類等が公開され

      多くの事実が明るみになります。

 

 

この本に書かれていますが、

 ドイツによる第1次調査に参加した

   ポーランド人法医学者が、研究目的だとして

     ヤニナの頭蓋など7体を持ち帰り

       密かにポーランド内で隠匿されます。

 

2003年 ヤニナの頭骨の存在が明らかになる

 

2005年 ヤニナの父ムシニツキの領地があった

      村で、盛大に葬儀、埋葬される

 

この本には、数々のエピソードが満載ですから

  是非読んで下さい。

 

学校では全く?習わないポーランドの歴史も

  教えてくれます。

 

  (ポーランド王国が栄えたり、

     他国に支配されたりと、

       激動の歴史があったことを

           教えてくれます。

 

   日本の戦国時代のような

     東ヨーロッパ史があります。)

 

この本を読むと分かるのですが、

 東ヨーロッパの国々というか民族が

  陸続きだから、支配と被支配が

   目まぐるしく移り変わり

     国境が揺れ動きます。

 

国境争いが、東ヨーロッパの歴史です。

 

  (見方によっては、プーチン戦争も

    その一つかもしれません)

 

第2次大戦中、ポーランド人の5人に1人が

  亡くなりました。

 

  (太平洋戦争中の沖縄県民と同じです)

 

この本で紹介されていますが

 「ブラッドランド(血に塗られた土地)」

   という本と言葉があります。

 

ポーランド、ウクライナ、ベラルーシでは、

 独ソ戦で、約1400万人以上の民間人が

  殺されていることからの言葉です。

 

  (独ソ軍人を入れると2000万人を越えます。

 

   またしても、プーチン戦争は

     現代の「ブラッドランド」を

        引き起こしています・・・トホホ、嗚呼)

 

この本の素晴らしさは、単に、ヤニナの人生を

  描くだけでなく、ファミリーヒストリーとも

   なっています。

 

  (ヤニナの妹のアグネシュカは

      反ドイツ組織パルチザンに参加し、

    ヤニナとの短い結婚生活だった

      夫の数奇な人生なども

    この本を読んで知ってください。

 

    ネタバレになるので書きませんので・・・)

 

そして、著者自身が、ヤニナの人生を追いながら、

  自分の人生を振り返り、また、ポーランドの

   心ある優しい人々と接しながら、

     多くの体験を得ていく姿も

      この本の魅力となっています。

 

優れたノンフィクションは、取材対象だけでなく

  著者自身を反映します。

 

この本は、著者の取材の旅を

  読者自身も、体験することができます。

 

読みやすく、とても優れた本です。

 

   (少し涙ぐんだりして・・・嗚呼)

 

東ヨーロッパを旅行するための

  必読の書です。

 

複雑な東ヨーロッパの近現代史と

  政治、地政学を学ぶ入門書にもなります。

 

是非、お読みください。

 

 (ネットフリックスあたりで

   映画化、ドラマ化できそうですが・・・)

 

最後に、プーチンは、

 ソ連の亡霊を追いかけている

   時代錯誤の碌でもない野郎です!

 

なお、「カティンの森」事件は

  アンジェイ・ワイダ監督によって

    映画化されています。

 

 

淡々と事実を重ねていく、

      重く暗い映画でした。

 

 

監督自身の父親も

  「カティンの森」で処刑されています。

 

傑作「地下水道」

 

 

名作「灰とダイヤモンド」

 

 

など名作も

  是非ご覧下さい。