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父親の違う三姉妹と長男、母親という

  歪な家族間の確執や嫉妬が渦巻く中で

    三女が自分と家族を見詰め直す。 

 

  

 

原作・林芙美子、脚本・田中澄江ですので

  女性映画です。

 

この映画に登場する男たちは

  どうしようもなくて、だらしない、

    いい加減な人間ばかりです。

 

くだらない男たちの中で

  女性たちが苦労しながら

     逞しく生き抜く映画です。

 

特に、高峰秀子演じる三女が

 家族の柵(しがらみ)や頸木(くびき)を

  断ち切るというか

   母親や姉たちの生き様を

    受容して、自分の道を見出していく姿が     

        この映画の主役であり

          テーマです。

 

映画ポスターの図柄そのものです。

 

 (男女に限らず、親の醜い、嫌いな面を

    受容して、子供は大人になる・・・。

 

 私も、大酒飲みの父親が嫌いだったですが

   学生時代に酒を憶え、酔っぱらった自分の姿が

     父親と同じだったことを知って、愕然とし

       父親を受け入れました・・・トホホ、嗚呼)

 

考えてみたら、くだらない無意味な

 太平洋戦争を始めたのは男で、

   女性はその犠牲者です。

 

この意味では、この映画は

  男社会への弾劾かもしれません。

 

とは言うものの、男社会に依存して

  生きるしかなかったのが、

    浦部粂子演じる母親です。

 

男を次々と変えては子供を生み

  育ててきた母親です。

 

  (私の母も、父との間に

    私を含めて6人の子供を

      生み、育てました。

 

  たぶん、昭和30年代までは

    避妊もあまりしなかったと思います。

 

  子沢山は、当たり前の時代でした)

 

ラストシーンの、三女と母親の

  言い争いは、すべての家庭、夫婦、親子に

    共通するテーゼです。

 

そしてこの映画、一番の見せ場です。


良い科白の応酬を繰り広げます。

 

  (高峰秀子と浦辺粂子の名演技です。

 

  この映画のように、高校生の頃

     私も父親と言い争いをしました。

 

   私 「何で生んだんや!」

 

   父 「できたもんは、しゃないんじゃ」

 

   実は、すぐ上の兄(五人目)を

    母が妊娠した時

     母は堕胎に行ったのですが・・・

      「ファミヒス」記事に顛末を書いています)

 

複雑な過程で育った高峰秀子演じる三女は

  戦地帰りの無気力な兄、

   口先だけの義兄、愛人持ちの義兄という

     頼りなくて、だらしない、いい加減な

      男たちばかりを見て

        男性不信になっています。

 

おまけに、小沢栄太郎演じる

  エロで、スケべな小金持ちの男まで

    登場します。

 

しっかり者の三女が、自分の人生を

  見詰め直し、将来に向けて

     再スタートしようとする物語です。

 

この映画は、女性向けの映画と言えますが、

  男性こそ観るべき映画でしょう。

 

  (この映画を観て、

    我が身を振り返る男はよりも

     まったく気にしない男の方が

      世間には、今でも多いはずです・・・トホホ)

 

この映画を観て思うのは、

  昭和の俳優の演技の上手いこと。

 

主役から脇役まで、個性的な役のキャラを掴み

  役柄を演じ切っていることです。

 

簡単に言うなら、映画という嘘の架空話に

  リアリティ、存在感を生み出しているのです。

 

ゆえに、感情移入が可能で

   映画の虚構の政界に没入できるのです。

 

  (現代の日本映画は、嘘をそのままに

     嘘だらけで、観るに堪えません・・・トホホ、嗚呼)

 

ほんまに、全員、演技が上手過ぎます。

 

映画の中で、存在感が増してくるのが

  浦部粂子演じる母親です。

 

  浦部粂子は、幼い頃に女優にあこがれ 

    住職の父親の猛反対の中

      家出同然で劇団を渡り歩きます。

 

  一度、結婚はしますが、

    夫に苦労させられ離婚し、

      87歳で、大火傷で死ぬまで、

        一人暮らしを続けます。

 

  戦前から、戦後まで、

   名演技の脇役として

    大活躍していました。

 

  口癖は「人間は生まれる時もひとり

        死ぬ時も一人」だったとか・・・。

 

  

      (浦部粂子と高峰秀子)

 

一人息子を溺愛し、3人の娘へは

   愛情が少ない様に見えるのは

     同性だからでしょう。

 

灰汁の強い厭らしい男を演じるのは

  悪役をさせたら、5本の指に入る

    名優・小沢栄太郎です。

 

 

  戦前、左翼系演劇に傾倒し、

    治安維持法で逮捕され

      1年半、刑務所に服役。

 

  出所後も、演劇、映画界で活躍し、

    徴兵され、帰還。

 

  戦後も、脇役の悪役などで活躍。

 

  女性問題が派手で、

    最初の妻は、小沢と女優・山岡久乃との

      別れ話が成立直後に

        自殺しました。

 

  ひょっとしたら、この映画の役の

    半分以上は、地だったりして・・・。

 

この映画には、

  ヒロインの腐りきったような家庭と

    理想的な兄妹の家庭が

      対比されて登場します。

 

救いのない世界だけでなく

  希望が持てる映画になっていいるのが

     この映画の大きな魅力となっています。

 

一方では、さりげなく、長男とか

  香川京子が演じる家族に

     戦争の影を描いているので

        反戦の意味が込められています。

 

監督は、成瀬巳喜男です。

 

  溝口健二、小津安二郎、黒澤明に次ぐ

    「第4の巨匠」と言われています。

 

 

  女性を描かせたらとても上手い監督です。

 

  女性を描くのが苦手?だった黒澤明が

    一番尊敬していたと言われています。

 

  手堅い職人技の無駄のない演出なので

    観客に飽きを感じさせることがない

      監督です。

 

  この映画でも、科白回しが多いのですが、

    テンポが良いので、時間の長さを

      感じません。

 

  シナリオの上手さもあります。

 

この映画の時代は、

  複雑な家庭であっても

    おおらかに生活できました。

 

貧しいけれど、嫌な家族、他人でも認める

    ゆとりがあった時代です。

 

この映画の登場人物のように

 人間の弱さを持ち、他人が弱さを

   認めることができた

    時代でした。

 

   (次女が夫の愛人を助けたようにです。

 

    現代は、人の弱さを認めない、

       勝ち負けを明確にする、救いの少ない

         息苦しい日本になっています。)

 

この映画は、女性の自立だけでなく

  人の弱さを認める勇気を描いています。

 

良い映画です。

 

是非ご覧ください。

 

この映画は、高峰秀子映画祭で

  観ました。