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1943年4月18日、前線視察に向かう

 山本五十六搭乗爆撃機を

   アメリカ軍が撃墜した。

 

この作戦を、アメリカ側からの視点から

 描いたノンフィクションです。

 

副題「オペレーション・ベンジェンス

          (復讐軍事作戦行動)」

 

  日本側は、海軍甲事件と言います。

        (その後、海軍乙事件が起こります)

 

 

私のようなミリオタ向けの本ですが

  太平洋戦争の入門書、

    特にガダルカナル島攻防戦を

      理解しやすく読むことができます。

 

戦記本を読んだことが無い方に

  お勧めできるノンフィクション本です。

 

1、日本海軍の暗号を

     アメリカ側は解読していた。

 

2、山本五十六の前線の

   ブーゲンビル島視察計画を

     暗号解読した。

 

3、山本五十六殺害を実行することは

    アメリカ側にとって、大きなメリットが

      あると決断した。

 

4、ガダルカナル島の基地からの

   長距離攻撃になるので

    P-38ライトニング戦闘機で

      強襲するしかない。       

 

  (ガダルカナル島からブーゲンビル島まで

    往復できる戦闘機はP-38ライトニングだけ)

 

 

  中低空の空戦には、弱いが、

    高速を生かした一撃離脱で強みを発揮し

      「双胴の悪魔」と言われ

         日本戦闘機には、難敵となる。

 

5、短時間のピンポイントで

    撃墜しなければならない。

 

  (ブーゲンビル島の空戦時間は

    15分間の燃料に限られる。

 

    15分間以上の空戦すると

      ガダルカナル島の基地へ

         帰還できなくなる)

 

6、山本五十六が、視察計画通りに

    飛んでくるかは、ギャンブルとなる。

 

  (出発の遅れ、計画変更があれば

     山本五十六機と遭遇することはできない。)

 

7、山本五十六は、時間を守る人間だ。

 

     (時間通りに飛んでくる)

 

8、山本五十六機撃墜すれば、

    日本側に暗号解読をしていることを

      バレる可能性があるが

         それ以上のメリットがある


10、山本五十六以上の優れた軍人は

     日本軍には存在しない

 

    (日本に大きなダメージを

           与えることができる)

 

11、真珠湾の復讐であり、

    アメリカ軍を鼓舞できる。

 

この本では、

ブーゲンビル島上空で

 撃墜される山本五十六と

  撃墜したレックスパイロットの

   二人の人生を描きながら

    太平洋戦争が語られます。

 

アメリカ側の視点ではありますが、

  著者は、客観的に太平洋戦争の

    歴史を描いています。

 

 (ガダルカナル島での

   日米両軍の残虐行為も

     しっかりと描いています)

 

 

1941年12月8日 真珠湾攻撃

 

  結果的に、「騙し討ち」となり

   山本五十六が怖れていた

    「ヤンキー魂」に火をつけてしまった

 

1942年6月5~7日 ミッドウェー海戦

 

  日本 空母4隻と巡洋艦1隻撃沈 

         200~300機損失

  米軍 空母1隻撃沈、150機損失

 

  ミッドウェー海戦後でも、日本の海軍力は

   米軍より大きかった。

 

   アメリカの徴兵、軍需産業体制が

    フル稼働になり、米軍の大規模反撃は

      1943年以降になると、

        日本側は予想していた。

 

   いつもながら、日本民族の特徴からか

     自分に都合の良い日本の思い込みであった)

 

  ミッドウェー海戦の敗北で、日本の

    ミッドウェー島、ハワイ島攻略は挫折し

      アメリカとオーストラリアの兵站輸送を

       制空権をとって止めるために、

        ガダルカナル島に

         飛行場建設を、日本は始めた。

 

1942年8月7日 

   米軍は飛行場完成直後の

     ガダルカナル島に上陸、急襲し

       飛行場占領に成功した。

 

   日本は、米軍の意図を甘く考えて

     飛行場取り返しに行くが

       失敗の連続で、泥沼の消耗戦となり

         悲惨な結果に終わる。

 

この本でも指摘されていますが

 日本軍の最大の弱点、問題点は

   陸軍と海軍の仲の悪さです。

 

  単純には、海軍は、アメリカが敵ですが

         陸軍は、中国、ソ連が敵でした。

 

  ゆえに、ガダルカナル島は海軍の仕事で

   陸軍は、お付き合い程度と考えていた。     

 

  ガダルカナル島の陸上戦でも

    中国、東南アジア、フィリピンの初戦で

      破竹の勢いで勝っていた陸軍は

       「米軍は弱い」と

          甘く見ていました。

 

  (能登地震での、岸田政権の初期災害対策が

    遅れた?のは、ガダルカナルと同じで

      逐次投入という負け戦の

        パターンです・・・トホホ、嗚呼

 

   戦争でする上で、絶対にしてはいけないのは

     軍隊の小出しです。

 

   作戦実行時は、一気に大量動員するのが

     指揮官の常識です。

 

    まあ、道路が寸断されたのかもしれませんが

     自衛隊ヘリコプターの全機投入を

      したらよかったのにと・・・

 

    まあ、正月だったこともあるでしょうが

      戦争には、正月もクリスマスも

        ないのだけれど・・・嗚呼)

 

この本の素晴らしいところは、

 複雑な変遷をするガダルカナル島攻防戦を

  分かりやすく、アウトラインを

    記述しているところです。

 

 (この本を読んでから、

    ガダルカナル島攻防戦の戦記を読めば

      理解が深まると思います)

 

1943年2月7日 ガダルカナル島から

          日本軍 約1万人撤退して終了

 

    日米両軍が約7カ月間、

       小さなガダルカナル島攻防戦を

         繰り広げました。

  

    日本軍 約2万人戦死(餓死1万2千人)

          軍艦 38隻 損失

          飛行機 683機 損失

 

    米軍   約7千人戦死

          軍艦 29隻

          飛行機 615機 損失

 

    ガダルカナル島攻防戦では

      日米似たような損害にみえますが

        アメリカは軍需産業の充実で

          損失を、補充以上に回復しますが

      国力の無い日本は、回復できないまま、

        太平洋戦争を戦い続け、

           負けていきます。

 

山本五十六は、ガダルカナル島の重要性を

  ミッドウェー海戦前から認識していました。

 

  (海軍には、陸軍のような部隊はなく

     陸上戦闘は、陸軍にお願いするような

       かたちでした・・・トホホ、嗚呼)

 

ガダルカナル島攻略失敗を挽回するために

 ニューギニア、ガダルカナル方面の支配権を

  とるための「い号作戦」を

    日本軍は実施します。

  

この「い号作戦」の現地指揮官となったのが

    山本五十六でした。

 

 

1943年4月7~15日 い号作戦 

   

  日本軍は大規模に作戦したのですが

     大きな戦果はあげれず、消耗しました。

 

4月18日 山本五十六は、「い号作戦」の慰問で

        ラバウルからブーゲンビル島へ

          飛び立ちました。

 

米国通の山本五十六を、

      アメリカは怖れました。

 

  (山本五十六は、約2年間

   ハーバード大学へ留学し、

    米国の石油、自動車、飛行機産業、

      物資流通などの見聞を広めた。

 

  さらに、3年間、駐米大使館の駐在武官となり

    米国の工業力を視察した。)

 

山本五十六は、アメリカに勝てなことを

  知っていたがゆえに、

   アメリカ人が最も嫌う戦争の仕方を

    続ける可能性があった。

 

  (アメリカ人は、自国の若者が

      外国で死ぬことを嫌います。

 

   ゆえに、アメリカの若者が

     戦争初期に、たくさん戦死すれば、

       アメリカ国内に反戦気分が強くなり

         停戦に持ち込める可能性が

           出て来る。)

 

山本五十六がいなくなれば、

  アメリカは、主導権を握って

    戦争をすることができることになります。

 

アメリカは、山本五十六の排除を決定します。

 

この本で描かれていますが

 アメリカは、ひとたび、目標が決まると

  全力を集中して、取り組みます。

 

  (徹夜で燃料増量タンクを

     P-38戦闘機に取り付けます)

 

そして、アメリカの強みは、

  現場の指揮官に全権を与えます。

 

  (日本軍は、逆に、現場の指揮官に

     裁量権を与えず、硬直した命令を

      実行させます。

 

   日本軍というか、日本人は

     臨機応援ができない民族のようです。)

 

この本では、太平洋戦争を通して

  日本軍は、合理的な思考ができず、

    学習能力が低いことを

      指摘しています。

 

 (ガダルカナル島の陸軍のように

    同じ失敗を何度も繰り返します。

 

  例えば、アメリカ軍は、零戦対策に

   有名な2機編隊のサッチウェーブ戦闘を

    開発しますが、日本軍は、何も

      新しい空中戦法を編み出さず、

        戦い続けます。

 

  日本のパイロットが新しい戦法を発見しても

    秘伝として、仲間に教えることは

     少なかったようです。

 

  また、アメリカは、飛行機よりも

    パイロットを育てるのに時間がかかることから

      パイロット救助に全力をあげましたが、

       日本軍は、サメの海を泳いで帰ってこい

         というくらいです。

 

  アメリカの戦闘機は、防弾設備が

     充実していましたが

  日本の戦闘機は、ほとんど防弾設備がありません。

 

  これについては、日本の工業力の限界が

    絡んでいますが・・・トホホ)

 

ダラダラと書きましたが

      本題に戻ります。

 

著者は、元パイロットですので

  出撃したパイロットが

    どのように戦闘機を操縦し、

      ブーゲンビル島へ向かっていったかを

        詳細に書いています。

 

  (このあたりは、私のようなミリオタには

     涙が出るほど新鮮な発見と驚きでした)

 

山本五十六チームは、

  一式陸攻爆撃機2機、零戦護衛6機で出発します。

 

 

  (部下の中には、護衛機が少なすぎると

    進言したようですが、山本が

      「い号作戦で疲れてるパイロットを

        たくさん飛ばすのは忍びない」と

          断ったとか・・・

 

   ついでに言うと、日本海軍の暗号が

     アメリカに解読されていると

       進言した軍人もいましたが、

         日本軍中枢は無視していました)

 

   さらにいうと、前線の将兵に贈る

     お菓子などのおみやげを運ぶ爆撃機1機も

       後から追いかけていました)

 

アメリカの現地指揮官が、

 山本機撃墜の緻密な飛行計画を立てます。

 

  (P-38戦闘機16機がブーゲンビル島へ)

 

日本軍の制空権下を飛ぶので

  最新の注意を払ってアメリカ機は飛びます。

 

  (この辺りも、丁寧に描写しているので

    臨場感が迫ってきます)

 

2機の一式陸攻爆撃機のどちらに

 山本五十六が搭乗しているかは

   アメリカパイロットには、分かりません。

 

ゆえに、誰が山本機を撃墜したかは

  作戦後に、謎、問題となってきます。

 

この本は、この問題に

   決着をつけた本といえます。

 

   (誰かは、本を読んでね!)

 

日本側の謎としては、

  山本五十六が、機内で死亡したのか

    銃弾で死亡したのか、

     それ以外で死亡したのか?

      不時着後に死亡したのか?

        不時着後に自決したのか?

          など、死因について

            議論が分かれていました。

 

この本では、この謎も解明しています。

 

アメリカ人作家ですので

  山本五十六の愛人についての

     記述があるのは、流石だと思いました。

 

  (日本では、とかく山本五十六を

     軍神、聖人君主のように扱うことも

       あるのですが、とても人間臭い面を

          持っています。

 

   愛人に戦地からラブレターを

     送っています。

 

  なお、山本五十六は、

    ギャンブルが大好きなだけでなく

       博才にあふれ

          とても強かったです。

 

  モナコのカジノで大儲けをして

    軍人を辞めて、ギャンブラーに

      なろうかと考えたことも

        あったそうです。

 

   真珠湾攻撃は、大博打でした。

 

   失敗すれば、負け戦が決定しました。

 

   山本五十六は、アメリカに勝つことは

     できないことを十分知っていました。

 

   真珠湾、ミッドウェー作戦で成功すれば

    日本に有利な条件で停戦ができると

      考えていたはずです。

 

  最初に、真珠湾で大負けすれば、

    日本は、停戦せざるおえないし、

      大勝すれば、有利な条件で

        停戦交渉ができる。

 

  負けるなら、早く負けた方が

    日本に良いと思っていたと、

      私は想像しています

 

  真珠湾攻撃は、

   ギャンブラー山本五十六の

     真骨頂です

 

  ミッドウェー以降は

    手札なしのポーカーゲーム

      になりました。)

 

太平洋戦争は、

  山本五十六の戦争でした。

 

極端なことを言えば

 山本亡き後の日本には

   特攻くらいしか

      できませんでした。  

 

この本は、太平洋戦争の変遷を

  よくまとめていて、 

    分かり易いです。

 

戦記なんか読んだことのない人も

  一度は読んでみて下さい。

 

日本の戦記に多い、思い入れや

   情感たっぷりではなく、

      事実をしっかりと

        描いています。

 

日本人とアメリカ人の民族性や

  思考の違いも描いています。

 

戦記文学は、戦争における人間を

  描いているのが魅力です。

 

是非、この本に取り組んで下さい。