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山に住む遊牧民・山窩(サンカ)にまつわる話の

  小説集です。

 

 

朝日新聞の記者だった著者は

  殺人事件を取材している中で

   サンカを研究するようになり

     戦前~戦後にかけて

       サンカを主人公とした

         小説を書いて

            売れっ子作家になります。

 

山窩(サンカ):日本の山間地で、定住せずに

           テントのような住居(瀬ぶり)に住み

            狩猟採取、蓑(みの)作り、

             竹籠作りの販売などをしながら

              放浪、移動生活をしていた。

 

          明治期で20万人、昭和の敗戦後でも

            1万人いたと言われている。

 

 

   民俗学者の柳田國男の調査が、

     研究の始まりとされているが

       現在もあまりよくわかっていない。

 

  一般社会との関りがすくなく、独特の言葉(方言)を

   話していた。   

 

 

  被差別民として差別されていたが、

    定住化がすすみ、現在は消えてしっている。

 

 

サンカは、一般社会の周辺に住み、

  戸籍を持たずに生活し、

   最小限の社会との接点を持つだけだった。

 

 (まあ、アマゾン川奥地の

    少数民族のようなものかなあ・・・)

 

著者の三角寛は、民俗学的な研究が進んでない頃に

  サンカとの親密な交流をして、

    サンカ文化の知識を得た。

 

 

サンカを世間に知らしめたのが

  三角であった。

 

三角は、サンカからの話、習慣、事件などを

  大きく脚色、創作して、サンカを

    主人公にした小説をたくさん発表し

      流行作家となった。

 

推理小説、実録小説、犯罪小説などの

  大衆文学の要素を多分に持っていたので

    面白く、人気が出てました。

 

そのために、サンカの実態とは異なる要素が増え

  三角が得たサンカの知識、研究は

   学問的には疑問点が多く残っているそうです。

 

この本のサンカの物語を読むと

  「ホンマかいな?」というほど、

     上手い話となっています。

 

  (それだけ面白いのですが・・・)

 

物語の中に、サンカの風習、社会構造、

 独特の言葉などが散りばめられていて

   教科書にはまったく載っていない

     日本の別世界があったことに

        驚かされます。

 

探偵小説、推理小説といえるような

  物語が続きます。

 

テンポのよい、読みやすい文章なので

  サンカの世界を探訪しているような

    気がしました。

 

三角のサンカ文学は、

  中島貞夫監督、萩原健一主演で

    「瀬降り物語」として映画化されました。

 

  (観たことがあるのですが、

    ラストシーンで、

     四国山脈の山深い尾根を

      主人公のサンカたちが歩くのが、

        一番印象に残っています。

 

   大掛かりな山岳ロケをしたのですが

     ヒットしなかったです。

 

   なお、この映画化に関して、

    部落解放運動側からの

      圧力?がかかったこともありました)

 

実は、私の母は、四国山脈の

  山深い山村育ちです。

 

「瀬降り物語」を観た後、

  母に尋ねました。

 

私  「お母ちゃん、○○(母の実家の村名)に

      瀬降り、サンカはいたのか?」

 

母  「おらん(いない)!」

 

いつもの母らしくなく、即座に

  強く否定したのが、気になりました。

 

その後、叔父(母の弟)にも尋ねましたが

  否定されました。

 

 (叔父は、村長をしてました。

 

  村長時代に、村の被差別部落の記録があり

    その記録を処分する前に、

     こっそり残しているようなことを

       言っていたような記憶が残っています。

 

  その時は、「そうなんか」と

      聴き流してしまいましたので・・・

 

  ひょっとしたら、サンカの記録が

         残っていたのかもしれません。)     

 

私の印象では、二人とも

  知ってはいるけれど、

    サンカの話は、「村のタブー」のような

       気がしています。

 

  (同じ年の従弟が、母の実家を継いでいるので

    今度、チャンスがあれば、尋ねてみようと

      思っています・・・)

 

なお、サンカは、勝手に山林私有地に入って

  狩猟採取をするので、村人からは

    嫌われていたそうです。

 

 (また、サンカの女性は、売春をしていたことも

    あったと言われています。)

 

この本は、サンカという、ちょっと

  ミステリアスな世界を描いている本です。

 

日本の民俗学の盲点?を教えてくれます。

 

この本の物語は、

 差別問題が絡むかもしれませんが

  ドラマ化したら、面白い作品ができるはずです。

 

ともかく、日本には、

  サンカと呼ばれ、国に管理されず、

    山間部で自由に放浪し、

      狩猟採取中心の生活をしていた

       人々がいたということです。

 

残された記録が少ないために

  ミステリアスに、面白可笑しく描かれ、

    嫌われ、差別された存在でした。

 

この本は、サンカの存在を

  広く教えてくれた反面、

    得体のしれない謎の人々だという

       先入観も広めました。

 

SNS社会となって、日本全体が均質化し

  地方文化が失われていっている今こそ

     記録し、残しておくべきことの

       大切さを教えてくれる本です。

 

今の日本は、民俗学が、

  歴史に埋もれていっている

    時代かもしれません。

 

この本に描かれた失われたサンカの姿は

  限界集落に住む人々の未来の姿です。

 

地方の衰退は、地方文化の消滅なのですから・・・。

 

是非、この本を読んでみて下さい。

 

失われた日本の、一つの姿が描かれています。

 

  (誇張と脚色が色濃い作品ですが・・・)