ランク Bの上~Aの下

 

トイレ清掃を仕事とする初老の男に起る

  日常の小さなエピソードを描く

 

 

好みが分かれる映画です。

 

私は、どちらかというと、私好みに近い映画ですが、

  妻には、大嫌いな映画でした。

 

妻  「退屈な映画だったわ。

 

    役所広司のようなトイレ清掃人が

       いるわけけないわ。

 

    足が悪くて、駅の階段をよたよた歩く

      年老いた女性が多いのよ。

 

      (若い人も最近多いけど・・・)

 

    スカイツリーが見えるアパートなんて

      家賃が高くて、清掃人の安い給料じゃ無理よ

 

      (娘が一時、スカイツリーが見える

        江東区の賃貸ワンルームマンションに

          住んでいたけど、正規の家賃は

             10万円以上していたなあ・・・

 

       この時は、会社が家賃負担していてくれたから

          住むことができたけど・・・)

   

    おまけに、車持ちで、駐車場を借りられるなんて

      どれだけお金持ちなのよ。

 

     (主人公の実家は、お金持ちの家らしいから

        貯金があったのだろう・・・たぶん)

 

   あんな無口な男なんか、気持ち悪くて

     飲み屋の女将に気に入られるわけないわよ。

 

      (確かに、陽気に話す男の方が

                モテる気がするが・・・

 

       実は私の独身時代、大衆食堂で

         よく食事をしていました。

 

      いつも、私を含む独身男が3人、

        定位置の座席で、黙々と食事をしていました。

 

      10年くらい食事をしたのですが、

        お互いの名前、職業、住まいも知らず、

          たまに、雑談をするくらいでした。

 

      ある日のことです。

 

      大衆食堂の主人

         「にいちゃん(私のこと)。

                   

          いつも壁際に座っていた人がいただろう」

 

      私 「はい」

 

      主人 「あの兄ちゃんな、昨日の朝

            (店の)前のアパートで冷たくって

              亡くなってたんやで」

 

      私  「!!!!!!!」

 

      名前も、年齢も、職業も知らないままでした。

 

      10年くらい、ごくたまに、

        話したことがあるくらいで

         お互いにプライバシーを語らず

          もくもくと食事をしていました。

 

      都会の無口な独身男の人生は

        この映画のような華やかさ?が

          ないのが現実です。

 

      なお、私は、その後、結婚、引越して、

        大衆食堂へ行かなくなりました。

 

      その数年後、大衆食堂は閉店しました)         

 

    フィルムカメラが趣味何て

        現像代だって高いのよ。

 

     清掃人の安月給じゃ無理ね。

 

       (フィルムを売っている店も

             少ないもんなあ・・・)

 

     それに、あなたの貧弱な部屋より、

        良い暮らしをしてるじゃない。

 

       (本棚にカセットテープなど、私なんかより

         充実した生活をしているなあ・・・トホホ)

 

    初老の清掃人の男に、一度会った若い女の子が

      突然、キスをするなんて、有り得ないわ。

 

      (お調子者の軽薄な彼氏に比べたら、

        知的で、音楽センスがよくて、

          フィーリングがあったのかも

             しれないけれど・・・。

 

      確かに、このセクハラ御時世だし、たぶん、

        消毒液臭がしているはずだし・・・

 

     それに、今の日本が西洋化したからと言って

       若い女性が、簡単にキスをすることは

          あり得ないはずだけど・・・)

 

    驚いたのは、主人公を、妹と姪が

      ハグしたことよ。

 

    日本人は、ハグなんかしないわよ。

 

     (確かに、昭和人の私なんか、

        両親、兄弟姉妹にハグをしたことが

           一度も無い。

 

      妻も同じだし、日本人同士がハグする時は

        生死の別れのような、特異な場面だけで

           ほとんどないんだよなあ・・・)

 

     ともかく、トイレ清掃人が、

       贅沢な生活をしているのが

        ありえないのよ。

 

     嘘だらけの映画ね。

 

     退屈で、本当の日本を知らない

       外国人の日本映画ね.。

 

     役所広司の映画なら、『素晴らしき世界』が

       断然、良かったわ。

 

     介護士の虐待する悪い裏面をしっかり

        描いていたんだから。

 

     (妻は、准看護師、保母、介護士の資格があり、

        ヘルパーなど、それぞれの現場で

           働いていたので、

        底辺?の人々の暮らしを知っています・・・)」

 

妻の評価は、最低ランクでした・・・トホホ、嗚呼。

 

私は、退屈はしなかったけど、

  後半のエピソードが重なってくると

     妻のような違和感を覚えてきました。

 

やっぱり、ハグは、理解不能でした。

 

  (日本人の感情表現は、ハグなどのアクションではなく、

     距離をとった、面はゆい、武骨な

        コミュニケーションが主流だと思います)

 

この映画は、監督が、1970~80年代頃の

   昭和日本へのノスタルジーの塊の映画でした。

 

カセットラジオの「デンスケ」?が出てきたり、

  新聞紙を丸めて水につけて、部屋掃除をする

    懐かしい方法を描くなんて、

      監督の昭和日本のこだわりそのものです。

 

  (私が幼い頃の、大掃除は、映画のように

    濡れた新聞紙を丸めてしました。

 

  ただし、日常の掃除ではしなくて

    お盆、年末の大掃除の時だったけど・・・)

 

この映画の主役は、東京にある

  現代的な、綺麗なトイレです。

 

  (駅や飲み屋の汚いトイレではありません)

 

日本の奇抜な美しいトイレが、

  清掃人によって常に綺麗にされているかを

   紹介するような映画かもしれません。

 

  (たぶん、現実的には、

    ゲロ、ゴミ、カン、生理用品、汚物が

      撒き散らされていると思うのですが

         描かれていません。

 

   私がいつも使っている職場近くの

     駅の多目的トイレは、

       歯ブラシなどの洗面道具、

        ペットボトル、ペーパー散乱など

          生活臭プンプンです・・・トホホ)

 

そして、現代の東京の象徴、スカイツリーです。

 

映画の中で、バベルの塔のように見えました。

 

東京の無機質なビル群に、葉脈のような道路を

 美しく映像で写しながら、その谷間で生活する

  普通の人々の日常を切り取り、

    心象風景や夢を暗示する映像を

       多用している映画です。

 

銭湯、コインランドリー、古本屋、場末のスナック

  地下街の大衆飲み屋、古レコード屋、

    街中の神社など、

     日本通の外国人が好む観光場所を

      紹介している映画です。

 

登場人物の説明も、科白も少なく、

  下町で生活する独身の無口な男を描いています。

 

読書好きで、自然の木々を愛し、趣味を大切にし

 好きな音楽を楽しみ、争いごとが嫌いで、

  家族との濃厚な人間関係から

   逃避し、最小限の仕事で、決まったルーティンで

     静かに生活することを信条としている

       主人公です。

 

 (妻が「嘘っぽい」というのは、

      現実にはありえないことだと

        言うことです・・・たぶん

 

    さらに言うなら、健康に働けるうちは

      主人公のような生活もできるでしょうが

        病気、後期高齢者になると

          主人公の生活は

             破綻するはずですし・・・)

 

監督の理想の生活、人生を映画化した作品です。

 

この映画の世界だけなら、主人公のように

        細やかな幸せなのかもしれません。

 

大人のメルヘンと言えるような映画です。

 

1970~80年前後のロックの名曲を

  美しい映像に重ねて、映画は進行します。

 

  (私の世代には懐かしいナツメロですが、

     今の若い人は、どんな感想を持つのか

         気になりました)

 

この映画の失敗というか、微妙な違和感は

  脇役がリアル感のない下手な演技を

     しているところです。

 

古本屋の女店主が、素っ頓狂でした。

 

  (古本屋めぐりが趣味の私から言うなら

     古本屋の店主は、全員が無口です。

 

   客の買う本に、ごちゃごちゃ評価するなんて

     客の趣味に文句を言っているようなものです。

 

   店主が喋るのは、超お得意様だけです。

 

   街の古本屋には、神保町の

    古本屋街に置いていない

     普通のエロ本が、必ずあることを、

       監督は知らないのかもしれません。)

 

   何も言わず、最小限の必要なことしか言わず

     古本を売り買いするのが暗黙の了解です)

 

あがた森魚が、石川さゆりの伴奏をしているのには

  昭和40~50年代を知っているよという

    知識をひけらかしているような気がして

      少し気持ちが覚めました。

 

主人公の対極として登場したのが

  職場の同僚として登場する青年です。

 

軽薄過ぎるというか、あまりにも現実離れした

  設定なのには、戸惑いました。

 

トイレ清掃をする若い人を見たことがありますが

  人の嫌がる、馬鹿にされるような

    仕事を選んだのですから

     仕事へのそれなりの覚悟があります。

 

映画の青年が、

   到底選ぶような職業ではありません。

 

チャライ青年像を描くのではなく

  最底辺?の仕事を選んだ理由のある

    主人公に近い人物像にすべき

      ではなかったかと思いました。

 

チャライ青年は、

  公共トイレを汚く使用するように

    した方がよかったです。

 

 (唐突に、ダウン症?の青年が登場するのは

   今、流行りの、多様性を表現したかったのか

      少し、理解に苦しみました。)   

 

美人ばかり登場するので、

  現実感がないのもこの映画の欠点かも

    しれません。

 

山口百恵の夫・三浦友和が

  出演していたのには、驚きました。

 

西洋に「影踏み」の遊びがあるのかどうか

  知りませんが、今は、誰もしなくなった?遊びを

    映画に登場させるなんて、

      昭和を「これでもか」という

        ひつこさを感じてしまいました。  

 

ここまで書いてきて、気がついたのは

  この映画には、悪人がいないことです。

 

優しい人間しか出てこないので

  映画が平板になり、

    妻が退屈だと言ったのでしょう。

 

 (映画の大原則に

   主人公以上に「魅力的な悪人」がいないと

     良い作品にならないということです)

 

 

「映画は、芸術か?娯楽か?その両方か?」

 

この映画は、娯楽作品ではないのですが、

  それでは、芸術作品なのか?

     疑問が残りました。

 

  (映画の芸術作品には、

     どんな作品があるのだろうか?

 

   何となく、難解で、起承転結が曖昧で

     凝った映像とメロディラインの無い現代音楽

        になるかもしれません。

 

   すぐに、タイトルを思いつかないんだなあ・・・)

 

この二面性を求めた映画なのかもしれません。

 

 (見方によっては、中途半端に

    終わってしまったのかもしれません)

 

妻の評価は最悪ですが、

  私は、前半の淡々と主人公の生活を描く場面は

    とても気に入りました。

 

ただし、後半のドラマ仕立てのエピソードが

  重なってくると、少し、白けてきました。

 

良い映画ではあるけれど、

   評価が分かれる作品だと思いました。

 

 (どちらかというと、私の好みの映画かも・・・)

 

そうだ、この映画は、プチブル、中産階級の

  映画なのだ。

 

ゆえに、存在感を弱く感じるのだと思いました。

 

この映画を観て、どう評価するか?を

  試してみて下さい。

 

妻のように思うのかどうか・・・

 

  (私は、妻ほど酷い作品とは

         思わなかったけど・・・)

 

 

最後に、妻がこの映画で一番悲しかったのは、

  主人公が昼食をたべる神社のシーンでした。

 

その場には、一人で食事するOLが登場します。

 

実は、私の娘も、東京の職場では

  公園で一人で昼食をとっています。

 

いじめの後遺症で、コミ障の娘です。

 

一緒に昼食をする同僚ができず、

       いないのです。

 

都会で、孤独に、必死に生きる娘を思って

  少し涙ぐんでいました・・・嗚呼。