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新興住宅地の人々に起る日常の細々を

  丹念に、淡々と描いた世相を反映した

    ホームドラマです。

 

 

特に大きな事件が起こるわけでもなく

  高度成長期の中流家庭に起る

    ちょっとした波風を

       描いています。

 

オープニングとエンディングの

 おならエピソードが、新興住宅地の

   不思議な、異空間へ誘われます。

 

どうってことない、たわいのないエピソードで

  1本映画を製作してしまう力量に

     恐れ入ります。

 

動かないローアングルのカメラで

  硬い演技に、一本調子の科白まわしで

    紙芝居を観ているような感覚に

      囚われます。

 

 (俳優は制限された中で演じるので

    感情を表現するのが

      大変だったと思います。

 

 結果、本当の演技力のある俳優しか

   小津映画には出演できないのでしょう。

 

 言い換えるなら、小津監督好みの俳優しか

   小津映画に出演できなくなります)   

 

この映画は、ひょっとしたら

  最も小津安二郎調の映画かもしれません。

 

監督は、自分の映画作りの究極を

  実験的に試したのかもしれません。

 

 (小津監督の全作品を観てはいませんが・・・)

 

新興住宅地の路地から、

 川の土手を見上げたカットを

   一番大切に撮影したのかもしれません。

 

  (おならエピソードは

    長年監督が温めていた企画だったそうです。

 

  たぶん、監督の子供の頃の思い出なのでしょう)

 

激しく動けば、動的、感動的になるのではなく、

  静的なものでも、印象に残すことができる

    ということを表現したのかもしれません。

 

 (この映画が作られた昭和34年頃は

    石原裕次郎などのアクション映画の

      全盛期でした)

 

小津監督は、ひねくれものかもしれません。

 

この映画を観て、意外な発見だったのは

  小津監督が、世相を映し出す

     通俗、風俗監督だったということです。

 

その時代の庶民の暮らし、世相の動き

  時代の変化、価値観や、人心の移り変わりを

    批判的に、揶揄的に、

     小津監督は、画面に焼き付けたのです。

 

芸術性なんか追わずに、

   時代を反映する作品を求めたのでしょう。

 

ただし、あくまで、

  映画を観るだけの経済力がある

     中流階級に焦点を当てている

        気がします。

 

もちろん、ドロドロした人間関係、感情は

   おおくの庶民には、遠い存在です。

 

ゆえに、どこにでもある世界共通の

  庶民、家族を描くという普遍性を

    得たのかもしれません。

 

この映画の主役は、テレビです。

 

映画界を脅かしはじめたテレビを描くことで

  映画界の将来に、明るい未来がないことを

   予見していたのかもしれません。

 

   「テレビの時代ですよ」

 

主人公の子供の兄弟の姿をみれば

  一目瞭然です。

 

   (私の子供時代そのものです。

 

   テレビの友達の家で、時々、

           見せてもらいました)

 

名優と言えば、杉村春子、沢村貞子です。

 

そして、助産師婆さんを演じた三好栄子も

  いい味を出しています。

 

 (戦前から舞台女優で活躍し、映画初出演は

   黒澤監督「わが青春に悔いなし(1946)」で

    52歳のときでした。

 

   以後、名監督の映画に多数出演します)

 

 

 

佐田啓二、久我美子は、脇役になっています。

 

子役二人は、上手い演技をするので

  安心して観ることができます。

 

映画らしからぬ映画です。

 

小津映画そのものです。

 

是非、一度ご覧ください。

 

小津映画の中毒になるかもしれません。

 

デジタル修復の画面で観たので

  色鮮やかな、綺麗な色調でした。

  

 (日本映画特有のくすんだ色でないのは

    小津監督のこだわりがあったと思います)

 

小津監督は、ひねくれ者の、やんちゃ坊主

  だったと思います。