先輩の一言で、始まった。
中学校のオーケストラ部で
クラリネットを吹いていた中1の時である。
クラリネットは、3年先輩、2年先輩、
そして、中一の私の3人編成でした。
3年先輩は、ガキ大将というか、今で言うヤンチャでした。
(まあ、学校では、ちょっとした問題児でした)
2年先輩は、真面目なガリ勉タイプの人でした。
中一の私は、どんくさい、まだ小学生のような
背の低いチビでした。
暑い夏のある日の、練習中のことである。
3年先輩 「授業以外で、学校のプールは自由に泳げん!」
2年先輩、私 「?????」
3年先輩 「夜、忍び込んで、泳ぐけんな!」
2年先輩、私 「!!!!!!!」
3年先輩 「水泳パンツ持っとんな!」
2年先輩、私 「持ってるけんど・・・」
3年先輩 「暗くなるまで、練習して、
プールに忍び込むけんな!」
2年先輩 「見つかったら、
エライことになるけんど・・・」
3年先輩 「職員室から、プールは直接見えんけん
大丈夫じゃ!」
2年先輩 「ほなけんど・・・」
3年先輩 「今晩、泳ぐんじゃ!ええな!」
2年先輩、私 「はい・・・・」
先輩の命令に逆らえる時代ではありませんでした。
夜の8時頃まで、音楽室で練習と言うか
時間を潰していました。
3年先輩 「そろそろ行かんか。着替えるけんな」
音楽室で水着に着替え、制服を羽織りました。
プールは、高さ2.5m位のブロック塀で囲まれていました。
こっそりと、身を低くして
人目につかない場所に、学校カバンを置きました。
3人は、緊張した顔を見合わせました。
3年先輩 「ここから入るけんな」
背の高い先輩方は、ブロック塀に飛びつき、
越えていきました。
ところが、当時、背の低かった私は
何度飛びついても、ブロック塀に上がれません。
私 「先輩、無理です・・・」
3年先輩 「ほな、入り口を乗り越えてくるんじゃ」
私 「はい・・・」
プールの入り口は、職員室からは30mほど
離れてはいるけれど、死角になってはいません。
職員室には、灯りが点いています。
決死の覚悟で、抜き足差し足で、静かに入口へ向かいました。
入り口の鉄格子の扉に取りつき、
音を立てながらも、なんとか乗り越えました。
照明の無いプールは、真っ暗でしたが
プール横の家からの灯りで、
ほんのり水面が照らされています。
3年先輩 「見つからんかったか?」
私 「音はしたけんど、見つからんかったけんど・・・」
3年先輩 「ほな、泳ぐぞ・・・」
プールサイドで制服を脱ぎ、水着になりました。
3年先輩 「音を立てんように、
静かに入るけんな・・・」
恐る恐るゆっくりとプールに入りました。
3年先輩 「クロールはアカンけんな。
音を立てんように、平泳ぎをするんじゃ」
暗いプールを、3人で泳ぎ始めました。
ちょっとした冒険心と、征服感で、
気分よく泳いでいました。
職員室からは、何の気配もありません。
3人だけのプール独占です。
10分位泳いでいると、
だんだん、気が大きくなってきました。
3年先輩 「クロールで泳いでも、大丈夫じゃ。」
2年先輩 「見つかるんじゃないかいな・・・」
3年先輩 「大丈夫じゃ・・・」
3年先輩が、クロールで水音を立てて泳ぎ始めました。
それにつられて、2年先輩も私も、
クロールで泳ぎ始めました。
水音が、誰もいないプールに響き始めました。
5分位でしょうか、楽しく泳いでいました。
とっ、突然です!
「こらあ!誰が泳いどんじゃ!!」
水に潜り込みました。
着替えのあるプールサイドへ潜水しました。
3人揃って、水面から、ゆっくり顔を上げて、
頭を巡らせ、辺りを伺いました。
3年先輩 「誰じゃ・・・」
2年先輩 「あの家からです・・・」
2年先輩の指さす方向を見ると
プール横にある、家の2階から、
オッサンが窓を開けて、プールを見ているのです。
慌てて、また、水に潜りましたが、息は続きません。
また水面から顔を出して、オッサンを見ました。
蚊が寄ってきましたが、耐えるだけです。
そうこうしている内に、オッサンは、しばらくして、窓を閉めました。
2年先輩 「学校へ言うんじゃないんかなあ・・・」
3年先輩 「そうじゃ、すぐに逃げんか」
慌てて、プールから出て、
濡れたまま制服を着ました。
3年先輩 「乗り越えるけんな」
先輩方は、また、再び、高いブロック塀を乗り越えました。
私は、仕方が無いので
入り口のドアを乗り越えました。
入り口のドアの上からは、職員室が丸見えですが、
何の動きもありません。
カバンのある場所へ急ぎました。
3年先輩 「職員室はどうじゃった?」
私 「何も無いようでしたけんど・・・」
3年先輩 「よっしゃ、急いで帰るけんな!」
今度は、3人で学校の塀を
無事に乗り越えました。
3年先輩 「作戦成功じゃ」
2年先輩 「明日、バレんかいな?」
3年先輩 「見つかってないけん、
誰か分からんはずじゃけん、
大丈夫じゃ」
私 「服が濡れたままじゃけんど・・・」
3年先輩 「乾かしてから、帰るんじゃ。
誰にも言うたらアカンけんな!」
2年先輩、私 「はい・・」
3人は、それぞれ家路につきました。
母 「今日は遅かったんやなあ」
私 「練習が長びいたけんな」
翌日、学校では、何の問題もなく
過ごして終わりました。
ちょっとした、学校への反抗でした。
3年先輩は、卒業して工業専門学校へ進学し
その7月に、単車の排気音を響かせて、
クラブへやって来ました。
それが、3年先輩との、最後の付き合いでした。
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夏に撮影した、近鉄電車内の
ダイナミックな「海遊館」つり広告です。
(この広告は、コロナ第1波後でした。
この頃は、今ほど酷くなるとは
思いもよらなかったなあ・・・トホホ)
