母が始めた小さな旅館業。
様々な客さんが泊まります。
旅館業をしていると、警察が定期的に、宿帳を見にやってきます。
逃亡中の指名手配犯が泊まっていないかなどを調べるのです。
大した観光地がない田舎町の旅館です。
主に行商人、長期の工事関係者などが中心です。
故に、正月に泊まるお客さんはほとんどいません。
ところが、正月のある日です。
風采のあがらない、30代の男のお客さんが、
ふらりと泊まりに来ました。
部屋は空いているので、母は泊めることにしました。
社交的で、おしゃべり大好きな母です。
お客さんとはすぐに打ち解けて、親しくなります。
ところが、このお客さん、母の話に乗ってこない。
おまけに、正月なのに、どこにも出かけない。
母 「どうも、あのお客さんがおかしいけんど・・・」
母の勘が働きだしました。
そして、ついに
母 「警察に電話するけんな・・・」
母は、くぐもった声でお客さんの風体を電話で話しました。
電話からほどなく、刑事一人がやってきました。
部屋に入ってしばらくしたら、
お客さんを連れて、一緒に警察へ帰ってしまいました。
母 「逃げてた犯人だったんじょ・・・」
私 「何の犯人だったんじゃ?」
母 「刑事さん何も言わんかったけん、分らんのんじょ」
帰る家がない犯罪人、世を儚んだ自殺志願者など・・・
正月に泊まる御一人様のお客さんは、要注意なのです。