『ハハ…お前のそういうところ…変わんねぇな』
『笑うことないじゃない…』
 しばらく続く沈黙…。
“ヒュー……ッ!ドーーーン!”
 夜空が明るくなり、最後に打ち上げられた花火が空を鮮やかに染め上げる。
『綺麗だな…こうやってお前と花火を見るの…何年ぶりだろう…』
 花火を見つめる彼の横顔…。
 いつもよりも優しい顔をしている…小さな子供のようように…。
『…好き…葵が好き…大好き…たまらなく好き…』
 私は、大勢の通行人がいるにもかかわらず、彼にぎゅっと抱きついた。
『お…おい…!』
『淋しかったの…本当は淋しかったの…当たり前のようにあなたがそばにいてくれたのに…』
 彼が…私を見つめて…少しずつ近づく唇…。
『お前に…ずっと…会いたかった…』
“チュ……”
 久しぶりに重なった…唇…。
 舌を絡めあい、息が止まりそうなくらい長く激しい口付けを交わした…。
『あ…っ!ん…っ!』
 色っぽく…切ない吐息が唇から漏れていく…。

『これ以上キスしたら…俺…ここでお前を押し倒しちまいそうだ…』
『あ…葵…!』
 気がつくと、完全に彼の胸の中に両腕で抱きしめられていた。
“トク…ン…トク…ンー”
 葵の心臓の音が…耳に響く…。 
 久しぶりの彼のキスに…まだ…ドキドキが止まらない…。
『まだ…出店…やってるかな…行ってみようぜ』
 みんなが花火会場から帰ろうとする中、葵は私の手首を掴み再び祭り会場へ戻ろうとしている。
『まって!あ…っ!』
 来た道を無言のまま戻る私と葵…。
 
 土手を降りると、煌々と光る屋台の明かりが見えた…。
 花火が終わったにもかかわらず、まだたくさんの見物客で賑わっている。
 焼き鳥や駄菓子、かき氷にたこ焼き…。
 どこでもある光景だけど、私の中で屋台は人生で2回目…。
 射的や水風船などもあり、小さな子どもたちで賑わっていた。
『何食べたい?』
 葵が、私に尋ねる。
『あ…あれなんて美味しそう…』
 それは…赤くてまぁるい形…。
 屋台の店先に、串に刺さって売られてたりんご飴…。
『俺が買ってやるよ…はい500円…』
 葵は、店主にお金を渡して、串に刺さったりんご飴を取った。
“ペロリ…”
 私が食べる前に、葵がりんご飴を舐めてしまったのだ。
『んもう!私が食べたかったのよ?』
『あっまぁ〜い!舐めたっていいじゃねぇか…すぐになくなるわけじゃねぇんだから…』
 舌を出し、無邪気に笑う葵…。

ーねぇ…葵?もう…どこにも行かないで…ー

『………』
『どうした?』
 葵が、私の顔を覗き込む。
『ううん!なんでもないの…今回は焼き鳥は買わないの?』
『俺はいいよ…お前食いたいのか?』
『ううん…ただ聞いてみただけ…』
『ふ〜ん…変なの…』
 
ー彼の笑う顔…久しぶりに見たわ…ー

 りんご飴を食べ終わり、串をゴミ捨て場へと捨てた。
『とっても美味しかったわ!あ…葵…あり…がとう…』
 巾着で顔を隠しながら、りんご飴を買ってくれた葵にお礼を言った。

ーこんなに素直に言えたのって…これが初めてかもしれないー

 祭りも終盤に差し掛かり、食べ物の屋台はラストオーダーを呼びかけるコールがあちこちから聞こえてくる。
 中には、すでに明かりが消えて店じまいをしている出店もあり、祭りが終わりの雰囲気が漂い始めていた。
『もうお祭りも終わっちまうな…さっきの千歳…可愛かった…』

『な…!何言ってるのよ…変な事言わないでちょうだい!』

 本当は…嬉しかった…葵に可愛かったって言ってもらえて…。
 ただ…素直になれないだけ…。

『金魚すくいあるぜ?』
『でも…もうお店終わりじゃない?』
 金魚すくいの出店も、店じまいをしていたけど…葵はお構いなし。
『おじさん!1回だけチャレンジさせてくれ!』
『ちょっと!葵!』
 彼を止めるも、店の方へと走っていく。
『おう!いいとも!1回300円だよ。そこのお姉ちゃんもやって行かないかい?』
『千歳の分も!はい!600円!』
『ちょっと!やるなんて言ってないわ!』
『いいから…いいから…』
 葵からポイを受け取り、椅子に腰掛けた。
 水の中で、スイスイと気持ちよさそうに泳ぐ金魚たち…。
 そっと水の中にポイを入れて、1匹の金魚に狙いを定める。
 右に左に必死に逃げ惑う金魚…。
『ああん!じっとしててよ!』
『金魚にそんな事言っても無駄だろ?』
『だけど…』
 少しの時間水につけていただけなのに…ポイの紙がふやけちゃう…。
 しばらく金魚を追いかけて、ようやく1匹の金魚が…ポイの上に…。
『そこだ!』
『……!きゃぁ!』
 葵の声に驚いて、手が震える。
“ポチャ………ン”
 ポイの紙が破けて…金魚が水の中へ!
『ちょっと!もうちょっとですくえそうだったのに!んもう!』
『だいたいポイを水につけすぎなんだよ!』
 そういうと、葵は私の隣に座ってポイを水の中に入れる。 
『ほらよっと!』
 30秒もしないうちに1匹の金魚をすくい上げ、水が入った容器の中へと入れた。 
『おっ!お兄ちゃん!うまいね!』
『まぁな!』
 嬉しそうに次々とすくい上げ、あっという間に5匹もの金魚をすくい上げた葵。
『かわいい…』
 彼がすくい上げた金魚を容器越しに眺めた。
 小さな容器の中で必死に泳ぐ金魚たちに、思わず笑顔になる。
『かわいいだろ?そろそろ帰るか…』
『ありがとうよ!また来てね!』
 持ち帰り用の袋に、すくった金魚を入れてもらい、立ち上がった。
『俺たちも帰るか…』
 さっきよりも人通りが少なくなり、歩きやすくなった土手沿いを、葵と手を繋いで歩く。
   
『もしかして…ちーちゃん?』
 声の聞こえる方向を向くと、そこには…
『わぴこ!北田くんも!』
 浴衣を着たわぴこと北田くんが立っていた。
「なんだよ!お前ら!いるなら早く声掛けてくれよな!千歳と2人きりでめちゃ息苦しかったぜ』
『なんですって⁉︎』
「まぁまぁ…お祭り楽しめたなら良かったじゃないですか…それに…』
『な…なんだよ!』
『な…なんでもない…』
 何か言いたそうにニヤける北田くん…。
『ちーちゃんは何食べたの?わぴこはねーかき氷のイチゴ味食べた!』
『わぴこらしいわね。私はね〜内緒よ!ね!』
 葵の笑った顔を見て、軽くウインクをする。
「お前ら早く帰れ!お子様は早く寝ろ!』
「お子様じゃないもん!』
『わぴこは僕が送りますからご心配なく』
『秀ちゃ〜〜ん!もっとお祭り…』
『もう終わりだよ?屋台の電気も消えてるだろ?』
 北田くんに手を引かれ、歩いていくわぴこ。

『あいつら相変わらずだな…』
『ええ…北田くん…民子さんと付き合っているみたい…』
『なぁ…俺たち…もう一回やり直さないか?』
 葵が、真剣な表情で私を見つめる。
『でも…私…』
『なんだよ!アイツとはもう切れたんだろ?』
『…うん…そうだけど…不安なの…あの人…しつこいから…いつまた目の前に現れるか…』
 ぎゅっと巾着の袋を握りしめた…。
『その時は…俺たちの激アツぶりをアイツに見せつけてやればいいじゃないか…しかしお前の母親も強烈だけどな。無理やりお見合いさせてくっつけようとするなんてさ…』
『昔からそうだったわ…いつも私の邪魔ばっかりして…いったい何がしたいのかしら…あの人…』