ケイくんの卒業式の日の夜
バイトから帰った私はおめでとうのメッセージを送るか迷っていた
でも、おめでとうって言うなら今日がいい
バイト先のみんなも卒業式だって知ってるんだし、ある意味自然なメッセージ
色んな言い訳をしながらタップする
「ご卒業おめでとうございます🌸」
「ケイくんが健康で幸せで楽しく過ごせますように」
ケイくんは今頃、卒業式の後のパーティーかな、それとももう故郷に向かう新幹線の中かな
そっとスマホを閉じてベットに入る
ふと夜中に目が覚めた
スマホを開くとケイくんからメッセージが
「ありがとうございます」
「のらりくらりがんばりまーす」
のらりくらりって頑張ってることになるの?って思わず心の中でツッコミを入れてしまった
本当に面白い人
こういう肩に力が入っていない感じが好きだったんだ
本当好き
「のらりくらりって
本当ケイくんって面白いよね〜」
心のままに返信していた
素直に
またスマホを閉じて眠る
返信来なくても大丈夫
本当好き
翌日はまたバイト
長明くんやミスターのSNSで卒業式の様子や写真を少し見てからバイトに向かう
卒業式楽しかったんだろうな
本当良かった
かわいい花束を持ったケイくんの姿も確認できて嬉しい
元気出ました
そして昼休み
スマホにケイくんからのメッセージ
「それは良かったです笑」
どう返事しよう
既読はつけないで考える
昼休みには結局いい返事が思いつかなかった
バイト終わりのコンビニで、夫が迎えにきてくれるのを待つ
私が少し冷たいから、気を使ってくれるようになった夫
彼も少しは反省しているのかな
そう思っていたけど、やっぱり本質は変わらない
ギュルギュル荒い運転でコンビニの駐車場に入ってきた夫に、安全運転とか心の余裕とかはない
攻撃的で高圧的な振る舞いに、こちらの神経がもたなくなってきている
とりあえず迎えに来てくれたお礼は言う
相変わらず周りの車の運転に文句をつけながら運転する夫
自分勝手な運転手についての文句を言ってるけど、さっきのギュルギュル運転をしておいてどの立場で言ってるんだよと、心の中でツッコミだけ入れる
現実には、気にしすぎたよと軽くあしらっただけだけど、少しは不満を伝えたつもり
夫は運転手の話をやめて今度は上の子の交友関係について話し出した
夫の妄想が止まらない
上の子が悪い友達に金づるにされて男に襲われてお金を稼ぐ道具にされると言い出した
そんな突き詰めて不幸になるシナリオを今議論したいの?
バイト帰りの車中で?
そんなだから嫌われるんだよ?
夫「俺は心配してるんだ!上の子も主婦だってそういう目に遭うんだぞ!」
夫は私達を犯罪から守りたいから、友達をあまり作るなと言ってるそうだ
まともに見えても変な奴はいると言う
そうなんだろうけと、そうなの?
まともそうでまともでないのはあんたも同じだよと、言いそうになってやめた
不安が他の人より大きいから、全てを疑って全てを排除しようとする夫との生活は苦しくて、生きてないみたいなんだよね
そんな時に息ができる場所がケイくんだった
窓の外から見えるコンビニは、ケイくんと待ち合わせたコンビニ
もうあそこでケイくんを待つ日はない
メッセージだけがつながり
だからもう素直にタップした
1人湯船に浸かりながら
「うん、そういうとこが本当好き」
「私ものらりくらりがんばるね〜」
涙が止まらないのはとうとう使ってしまった二文字のせい
「好き」
これだけは使わないと思っていたけど、もういいよね
これでブロックされたらもう終わり
ハッピーバッドエンド
好きって言えたからハッピー
ブロックされたらバッドで終わり
また1つ私が壊れていく
好きで好きで壊れるから
恋はこわい
さよなら
ケイくん
それでもやっぱり幸せでした
