とうとうセンター試験の日の朝6時


私は2時間しか眠れなかった


ゆっくり身体を起こし、つま先立ちで階下におりる

冷えたキッチンに灯りをつけて、電気ポットのスイッチを入れる


いつもなら後30分は寝ている


上の子の勉強や体調も心配だけど、夫が約3週間ぶりに帰宅すると思うと全然寝付けなかった


白Tシャツに白のざっくりニットのカーディガン、お気に入りの白と黒の細いストライプのパンツに着替えて、濃い紫色に水色の水玉模様のエプロンをつける


よし!と気合いを入れて卵を4個割入れた耐熱ガラスボウルに、めんつゆとオリゴ糖を混ぜて厚焼き卵を作る

もっちりした6枚切りの食パンにバターとマヨネーズを混ぜたものを塗り、卵焼きを縦半分に切ってケチャップとハム、チーズを挟んで出来上がり

ウチでは定番の簡単卵サンドだ

それから、野菜ジュースもランチバックに入れて準備OK


上の子も降りてきた


丁寧に支度を整えて、朝食をゆっくり食べるとおもむろに


上の子

「今日パパ帰ってくるんだね?」


私「うん、そう 試験受けてる間に帰ってくるって」


上の子

「ふうん」


少し不機嫌で少し面白がっているようないい方だった


大丈夫かなと心配になる


上の子も私も


夫と分かり合えるような事はあるんだろうか


ちゃんと言いたい事話せるんだろうか


どんな感じで帰ってくるのか


あまり考えすぎないようにと、気持ちを切り替えて試験会場近くまで車で送った


元気が出るような曲をと思ってかけたのは、最近シティーポップというジャンルで70から80年代の日本の曲が流行っているとテレビで観たことを思い出して選んだ曲


あの光の源氏という有名なアイドルの曲も流行ってるかなと、何気なくかけてみた


上の子

「何この曲!面白い!」


思った以上に喜んで聴いてくれた

 

上の子

「コロンブスって!」


歌詞が明るくて面白いと楽しんでる

上の子の楽しそうな笑顔にほっとした


私「じゃあ健闘を祈る!good luck!」


上の子「ウェーイ!」


手を振って別れた


試験頑張ってね


家に戻る途中、ベーカリーでパンを買った

ダイエット中だからあまりたくさんは買わないが美味しいものも少しなら食べても大丈夫だろう


家族が喜ぶことを優先して色々していたけど、自分も喜ぶ事を選ぶようにしてみたら楽しく暮らせる気持ちになってきた


お互いウインウインになりたい


それは、

美味しいものも食べながら、ダイエットも成功するって事と似ている


幸せになるために、楽しいことをするってこと


辛いことをしないってこと


辛いと続かないから、楽しそうなものの中から、方法を探すようになった


夫との関係にも使えたらいいのに


本当は夫と離れたいけど


5年前、仕事から帰った時、冷蔵庫の前で口から血を流しながら倒れている下の子を見た時の絶望感がわっと目の前に蘇る事がある


我が子にそこまでの暴力を浴びせられる人間とこのまま一緒にいられるだろうか


家に戻ると夫もすぐ帰ってきた


玄関で静かに迎える


私「あけましておめでとう、久しぶり」


夫「あけましておめでとう」


私「お風呂入る?」


夫「あぁ」


必要最低限の会話、お互い少しは気を使っている


お風呂から上がって少しご飯を食べた夫は落ち着いている


上の子の話をしてみようか


私「向こうでの生活はどうだった?」


夫「こっそり静かに生活してたよ」


私「ホテルとかに泊まればって何回も言ったけどね」


夫「お金かかるだろう、家族のために俺は我慢してあそこにいたんだ!心も病んでる!」

夫は私を睨みつけると少し興奮してそう言った


私「そうだろうね、上の子から全否定されたからね

でも上の子の気持ちを正直に言えて良かったよね?

心療内科の先生が上の子を診断した時の話してもいい?」


夫「聞きたくない!どうせ俺が悪い、俺を敵対視してる話だろう?聞きたいわけないだろ?」


私「それはそうだろうけど、親の責任として逃げるわけにいかないから逃げないで」


夫「それなら最初から聴いてってお願いすればいいだろ!」


(?お願い?気を取り直して)


私「受け入れやすいようにそう話しても良かったんだけど、親の責任として聴くよって言ってくれるといいなという私の期待から、このような質問になりました」


夫「俺も病んでんだよ!」


私「そうだろうね、だから夫くんも病院に行った方がいいよ」


夫「俺は行かない」


私「(自分を蔑ろにするならそれでいいですけど)なら、子供の事に集中してください」


夫「で?」


私「前にも話したと思うけど、私も子供達も夫くんをおこらせたくないから気に入られるように自分の気持ちを抑えて忖度してしまうんだよ

だから、上の子は言いたいことが言えなくてなって、進路も夫くんが行けばって言ったマスコミ関係とかにしないといけないのか苦しんでた

やっとそういう事を嫌だと言えたから、その事を先生は頑張ったと褒めてくれたよ」


夫「やっぱり何でも俺のせいにするだろ? 

俺が悪役ならそれでいいんだろう?

もうこんな家売って現金化して別の場所に引っ越したらいい」


私「家を売って現金化する話しは関係ないでしょう?今は子供の話をしてる」


夫「どうでもいい、俺が嫌いだって話だろ?はいはいそうですね」


私「どうしてそうなったかも分かってるよね?」


夫「家族のために俺がどんだけ仕事頑張ってきたかわかってる?」


夫は私の顔を見て一瞬言葉を止めた

自分だけが頑張ってると言おうとして、私から反発される事くらいはすぐ気づいてくれたみたいだ


夫「ここまで頑張れたのは私ちゃんのおかげだから感謝してる」


上滑りの言葉を横目で聞き流している私は、無表情だったと思う


私「頑張ってくれてる事を分かっていたから支えたつもりだった

でももう暴力を振るった事と度重なる暴言でその頑張りだって、足元から掬われる事になってるんだよ?」


家族として安心して一緒にいられないと、伝えてしまってもいいのだろうか


夫「…寝る」


私「…」


逃げたい気持ちでいっぱいなのは私も同じだから、夫が寝ると言って逃げたのを止める気にならなかった


私達は、お互いの個人の領域に入り込みすぎているのかもしらない


もう少し距離とラインを引いて、他人のように接していけたら尊重できるのに


不貞寝した夫をほっておいて、私は2階の寝室で本を開いた

少しでも今の現実を良くできないのか

これもまた現実逃避か

話し合えば分かり合えると思っていたけど、分かり合得るまで話し合うのはとても疲れる

お互い分かり合わなくてもそれなりに生きて来れたから、分かりあえるまで話す気ぐない人には何を言っても無駄だろう


分かり合えなくても生活できるけど、確認しないで勘違いして暴力や人の気持ちを考えないで言う暴言があるから、子供が先にギブアップしたのだろう


読みかけの本の内容と思考が合わさっていく


この悩みを解決していくためのヒントを探している


後数時間で上の子のセンター試験が終わる