夫婦喧嘩のことはもう一旦保留にしよう
気持ちを切り替えて、私は週末のバイトに向かった
休憩中上司から呼ばれた
3ヶ月ごとの契約更新の話だ
就職先が決まっていないから、もちろんそのまま契約する
サインし終わると、ちょっとホッとした
この洗車のバイトを、一年以上も続けられるとは思っていなかった
単純作業だけど、よく動くからかなりいい運動になる
久しぶりに2日連続働いて体重を測ると500g減っていた
この運動をお金をもらってできるなんて、考え方によると本当にラッキーだ
しかも色んな年代の人と話をしながら過ごせるなんて、価値観がゆらぐような発見がある
この1年間で、私は全然違う人間になったような気さえする
富士山に登ったり
外食をしたり
食べたかったものを食べたり
映画も結構行ったから、無料チケットがオンラインで届いていた
ドライブも登山ついでにできた
まつげパーマも初めてしたし、縮毛矯正のパーマで髪もサラサラストレートになった
バイトを始める前の、中肉中背どこにでもいる中年から、少し身綺麗な熟女までは言い過ぎかもしれないけど、それなりに好きな自分になったと思う
綺麗になって、より自分を好きになりたかった
綺麗でなくても良かったんだけど、何でもいいから自分のしたい事をやってみて自信をつけたかったんだと思う
そんな事を考えながら忙しく車を洗う
思ったよりも忙しかったバイトが終わり、近くの湯温が高めの銭湯に入りたい誘惑
身体がじんわりと痛むくらい働くと、熱いお風呂に入った瞬間、紅茶の中で砂糖がゆっくりと溶けていくように疲労が溶けて流れていく
その瞬間が1番幸せだと思う私は、Mなのかもしれない
安上がりな幸せだけど本当にそれが1番幸せな時間
美味しいものを食べた時とかなり近い幸せ
家に帰ると夫がお風呂を入れてくれていた
喧嘩の後だからかもしれないけど、嬉しいからお礼を言って入った
少しはお互い気を使えればいいのかもしらないけど、いつもこう言うことの後にまた嫌なこと言ってきたりするんだよね
そんなフラグっぽい考えをしてしまう自分に、やめとけとツッコミを入れた
案の定次の日の昼食時にまたイザコザ
あらかじめ作っておいたローストビーフで丼物を作ろうとサニーレタスとスライスしたローストビーフを皿に並べておいた
好きな量を自分でとるスタイル
コロナ対策でトングもおいている
にもかかわらずご飯粒のついた箸でローストビーフをつかもうとした夫に
私「トングあるから使って」
と言ってしまった
カチンときた夫は、
「使ってないきれいな箸だし」
と言った
私「ご飯粒ついてるし、一応コロナ対策で置いてある」
夫「はぁー」
イライラしてガチャガチャ箸を乱暴に扱う
横にいた上の子はまだ食事をしていないのに部屋に戻った
それをみてまた夫は
「何なんだよ全く」
私は何も言わず食べかけのヨーグルトと紅茶を持って2階に上がろうとした
夫「食べてる途中なのに!食事くらい一緒にとろうよ」
途中でもっと色々言ってたけど聞くのをやめて、2階の部屋でワールドカップの試合を観ることにした
モロッコとポルトガル戦
モロッコが勝ったのは今朝ニュースで知ってしまったけど、試合模様は観てないからとパソコンを開いた
下から話し声がする
リビングで夫がもう1人の子に説教を始めたようだ
夫「だからちゃんとした仕事に就かないと月給16万円で生活できるのか?」
いつもの貧乏生活になったら困るから今頑張れという説教が15分も続いていた
また夫が子を殴るかもしれない
サッカーどころではなくなり、2人のやりとりを自室で盗み聞きする私に、もう1人の子もやってきた
子「まだやってる、私達がいなくなった途端下の子を説教しだすってほんと狂ってる」
ほんと狂ってるという言葉が、今のこの子の口癖だ
私「うん、そうだね…殴らないか聞いてる」
子「私も聞いてた」
2人とも考えてることは同じ
私「こういうパパの怒りやイライラに息を潜めてる時間が苦しいよね…頭を絞られるようで」
子「分かる、頭痛がひどくなる」
どうしたらいいのかな
こんな状態でいいわけないのに
解決策ってあるのかな
3日前の夫婦喧嘩で、一緒にいたくない
離れたいって伝えたのに週末帰ってきた夫
お風呂を入れてくれるような優しさはあるのに、ちょっとした事ですぐイライラをぶつけてくる
こうして夫の機嫌の方向性を眺めていると、
家族がそれぞれ少しづつ壊れてきているのを感じる
ほんと狂ってきてる
激しい動悸と倦怠感で眩暈と吐き気がする
私「ちょっと疲れたかも」
横になる
何もかもどうでも良くなってくる
上の子「ほんと早く別れたらいいのに!それから、一人暮らしさせてくれないなら大学行かないから!」
もうどうしたらいいかわからないと思いながら、目を閉じた
