ジリジリと肌を焦がす日差しの中、いつものように洗車バイトで汗を流していた週末

その日は忙しくてなかなか休憩がとれなかった

仕事開始から身体は暑さに慣れず何となくダルいが、動いているうちに何とかなるだろうと軽く考えていた私は、もう少し注意しておくべきだったと今は後悔している


やっと仕事の区切りがついたと、日陰で水を飲んだり干し梅を食べていたら、何だかおかしい

夢の中にいるみたいな、ふわふわとした感覚と眠気が包み込んできた

楽しそうにスマホの画面を観ているケイくんや後輩くん、長明くんの脇を通り過ぎて、冷蔵庫の上の水筒に手を伸ばす

ごくごくと際限なく水が身体に染み込んでは消えていく、それでも全く癒えない喉の渇き

まだまだ水が足りない

眠気が急に強くなる

座る場所を探してふらふら歩くが見つからない

仕方なく洗車場近くに座ろうと戻るが、作業の邪魔になりそうでまた奥に戻る

知らぬ間に落とした自分のゴム手袋が目に入り、またふらふらと拾いに行く


ダメだ

もう

眠くて眠くて仕方ない

立っていられない

どこかで寝たい

手袋を拾うともう眠くて仕方ない

もうどこでも構わなくなって、日差しの中の椅子で眠り出した

ちょうどケイくんや皆から見えない

ごめんね

ちょっと眠らせてね

心の中で呟いて目を閉じた

全然暑くない

ちょうど眠れる

すーと意識がなくなって眠りだせた

ほんの一瞬の事だと思う

急に大きな声で起こされた


「びっくりした!

こんな所で寝ないで上で寝てきなよ!」

店長だった


「すみません

眠くて少しだけ寝たら大丈夫です」


そう言ったとは思う

言えていたかは分からない


店長「立って!

俺が抱えるわけにいかないから!」


えっ?立つの?

寝たいのに?

店長に促されて、仕方なく立つとイオン飲料を両手に渡された

えっ?持つの?

会議室に行けと言われたから、ふらふらと歩き出す


少し寝たらいいだけなのに

そんなことを思っていても足がなかなか動かない


身体が眠るモードに入っているようだ


チラッとケイくん達が見えた


ごめん

ちょっとだけ寝てくるね

また心の中で言う


眠くて眠くて仕方ない


会議室に入って椅子に座るとすぐ寝出した

バタバタと誰か入ってきた

椅子に足を伸ばして寝ていいと言ってくれたからその通りにした

寝ているとまた誰かが入ってきた

椅子をつなげて寝た方がいいと言われたのでその通りにした

氷を持ってきてくれたから頭に当ててすぐ寝た

冷たいと指先が言うが気持ちいいとも言う

自分の身体でないような暑さと冷たさが気持ちいい


寝たい

眠らせてね

もう一ついつのまにか氷の袋が手にあった

心臓に直接当てる

冷たくて気持ちいい

しばらくすると息がガクガクしてうまく吸えない

心臓はまずかったのかと、首元に氷袋を移動させる

どうしよう

眠たくて身体が動かない


1時まで休んでてと聞こえた

はいと返事したと思う


少し休んだら大丈夫だと思っていたけど、どうしよう吐き気もしてきた

さっきのイオン飲料を少し飲んだら、息が浅くなってきた

過呼吸になるかも

以前過呼吸になった時の事を思い出した

途端に恐怖であの苦しさが蘇る

息をしたらダメ!

出来るだけ息をしないでしばらくいると眠ってしまった


誰か部屋に入ってきた


ごめんなさいね

すみませんとか声をかけたと思う

ごめんなさいねしか言えないよね

いつの間にか1時になっていた

休憩にバイト仲間も入ってきた


ごめんなさいね


誰かの声で

私の言葉はかき消されていく

まぁいいかと思っていたら


「私さん!着替えて、家まで送るから!起きられる?」


私「はい」


反射的に返事をしていた

着替えて帰る事になったかー

重い身体をゆっくり起こす

頭は寝たいと言っている

一瞬どうしたらいいか分からなくなった

着替えるんだっけ?

ゆっくり立って部屋を出たら、トイレに行きたくなった

行けるかな?

仕方ないから行くか

ゆっくり階段を降りていく

ふわふわした夢の中のような足取りでトイレから戻り着替える

回っているような回っていないような頭に、やっと身体がおかしいのかもと思い出した 

会議室に飲みかけのペットボトルとエナジードリンクをとりに行って、バイト仲間に

お先に失礼しますと言ったとは思う


全てが自動的に行われたような感覚で、それはまるで主体性を失った操り人形になったようだった

そうして家に帰るとすぐ眠った

心配する夫と息子に大丈夫だと言って、着替えて眠った

ただ眠くて仕方なかった

アイスノンの冷たさでスヤスヤと眠った

2時間ほど寝たら急に目が覚めてきた


えっと勤怠押さなきゃ


モバイルで退社にする

良かった、すっかり忘れていた

ここでやっと頭が回り出したんだと思う


強烈な眠気も熱中症の症状の1つだった


ご迷惑とご心配をおかけしましたと、次の日グループLINEでお詫びのメッセージを送った

情けない気持ちと恥ずかしい気持ち


本当ごめんなさいね