バイト中

恋愛トークに花を咲かせる男子大学生達に、迂闊な事は言えないなーと思いながら話を聞いていた。

ダメな恋愛をしたくてしているわけでないとか、たまたま出会った普通っぽい子がメンヘラだったとか、女子と同じような恋愛観に思わす顔がほころぶ。

あー恋愛トークできるって素晴らしいなーと、心の中で思っていた。


川ちゃん「だからーゴキブリホイホイがあるとするでしょう?そこにゴキブリだけでなくて色んなのがかかるでしょ?そんな感じで色々出会うんだって。」


かわいい感じのゆるーい川ちゃんが意外にも肉食系な恋愛感を持っている。


川ちゃん「あいつと1年も付き合えるって俺くらいだよ。本当に大変なんだから!」


普通には惚気ない川ちゃん。

大変な彼女はきっと本当に大変な気性があるのだろう。

すごくいい大学の学生だと言ってたっけ。

人は人間性が合うかどうかだよと一瞬言いそうになったけど、自分の事を棚に上げては言えない。

ケイくんはいつもは川ちゃんの恋愛トークにノリノリなのに、今日は不機嫌そうに車を洗っている。

みんな色々あるよね。何の気ない素振りの中にいつもと違う雰囲気を感じ取れるようになったから、すこーし距離を置きながら好きな漫画の話しをしてみた。


私「ツーピース結構読んだよー。何かキャラ本みたいなのがついてて、ちょっと読んだらネタバレの宝庫だったよ。」


ケイくん「映画の特典みたいなのですかな、俺あんまそういうの知らないんで。」


やっぱり少しイラついている。

少し話した後、足元の脚立を軽く蹴りながら車の泡が流れるのを待っているケイくん。

眉間に皺も…

ケイくんの感情はケイくんだけのものだから、私が変に気を使うのは違うと思い離れた。

一緒に仕事するのもなんだか辛い。

好きな気持ちがより辛くさせている。

どうでもいい大学生と思えたら楽なのにな。

どうでも良くなくて、どうしようもないから苦しい。

好きな気持ちはキラキラして、世界が祝福に満ちて見えるのに、ちょっとした事で足元がガラガラと崩れるような不安定な気持ちになる。

はぁと小さなため息を心でついた後は、思いっきり身体を動かしながら車を洗った。


ふと気づくと何となく2人になっていた。


私「そういえば、今日子供達がコロナワクチン3回目打った副反応で熱が出てるんだよね。」


ケイくん「そうなんですね。薬とか飲むのってどうなんですかね。俺は飲まないです。」


私「そうなの?飲まなくて大丈夫なの?」


ケイくん「大丈夫です。」


私「すごいね、つよいなぁ。」


本当に何気ない会話。

それなのにまた仕事のアシストを自然にしてくれるようになった。

さっきのイライラは何だったんだろう。落ち着いて見えて気分屋な所もあるのね。

そんなケイくんがやっぱり好き。

嬉しくて哀しくてイラついて泣きそうでも、笑いながら仕事をする私。

ここでは全然ゾンビではない。

自分でもびっくりするほど恋する乙女だ。

新しい仕事を始めても、このバイトは続けていきたい。

正社員にならなくてもいい。

今は、ケイくんがここにいる今は、この時間を蔑ろにしたくない。

1週間に1度会えるか会えないか分からないこの関係は、ただの同僚でちょっとした友達。

一生の中の一瞬がこの数ヶ月。

21年生きてきたケイくんと、46年生きてきた私がたまたま出会って仕事してる。

全然違う場所で生まれて育ってきた私達。

みんなそうだけど、この出会いが私にとって特別になってしまったのは、ケイくんのあの言葉のせいだ。


ケイくん「僕達1ヶ月も出逢ってなかったんですね。」


今は言える。


違うと。


「私達それぞれ21年、46年も出逢えてなかったんですね。」


本当はずっと一緒にいられたらいいのに。


恋するゾンビはゾンビではない。

恋したら腐ってなんかいられない。

どこまでもアクセルを全開で走り抜けたくなる。

崖からバイクで海に飛び込みたくなる。

そして、ケイくんが46歳になっている25年後の未来にタイムリープできたらいいのに。

同じ歳になったケイくんに、


私「やっと出逢えましたね。」


って言えたらいのに。


恋するゾンビは時空も越える。