バレンタインチョコレートを見つめながら、ケイくんとのやりとりがフラッシュバックのように蘇る。


あー

バカな事言ってしまった…

年甲斐もなくとかは普段は言いたくないけど、誰かを傷つけるような事を言ってはいけない事くらい分かる年齢なのに。


かわいい水色の箱には、てんとう虫が飾られたマカロンが4個入っている。

バレンタインなのにマカロンとはと思ったが、あんまりかわいいマカロンだから、ケイくんに食べて欲しかった。

バレンタインだからとチョコレートも追加購入した。

何だかんだ夫よりいいものになってしまったが、理由はイワズモナガ。


どうしようか1日考えて、LINEする事にした。


私LINE「月曜か火曜に時間があれば、渡したいものがあるんですが会えませんか?」


ケイくんからのLINEはいつも遅い。


半日後


ケイくんLINE

「月曜大丈夫です」


ほっとした。

LINEを返してくれただけでなく、会う事も了承してくれた。

月曜の夕方に会える。

月曜は、バレンタインデー。

ケイくん家の近くのコンビニ駐車場で待ち合わせすることになった。


2日後の夕方、華やかなピンクオレンジのアイシャドウをほんのりまぶたに乗せ、目のきわにはダークブラウンのシャドウと入念に化粧をした。

ヘアはふんわりボブにオイルトリートメントで自然な艶、ヘアアイロンできれいな流れを持たせた。

服装は、ベージュのオーバーサイズニットに黒のペンシルスカート、ブラウンのショートブーツ、、耳にはパールのピアス。

マスクはダークグレー。


私LINE「今から出ます」


ケイくん「はーい」


緊張感が半端ない。

どう言って渡そう。

とにかくこの間の事で気分を害した事は謝ろう。

謝ってダメならもう帰ろう。

頭の中でぐるぐるシミュレーションが入れ替わる。

やっぱり素直に謝ろう。

心臓がバクバクする。

不整脈がさらにビートを激しく刻んでいることが分かる。

発作とかおこったりするのかな。

もしケイくんと会っている時に心臓が止まったらどうしよう。

可能性はゼロではない。

時にそういうこともおこる。

そんな普通では考えないような心配までしながら運転していたら、すぐに待ち合わせの駐車場についた。

ケイくんの姿はない。

コンビニの店員が2人ゴミの処理などをしていた。

店員がいる方向はケイくんがいつも歩いてくる道側だ。

店員と目が合わないように、反対側に車を停めた。

ケイくんが来るのを見て待ちたかったが、ちょっと不機嫌そうに歩いて来られたら泣くかもしれない。


待ち合わせの時間を10分過ぎたが、ケイくんは来ない。


あんなに緊張していたのに、来ない事が答えなのかもしれないと、気持ちが萎んでいく。

いや返事きてるから、きっと来る。

そう思って顔を上げたら窓の外にケイくんが立っていた。

私は、ちょっと強張った表情で助手席に座るようにジェスチャーで伝えた。


ケイくん「こんにちはー、失礼しまーす」


私「こんにちは、来てくれてありがとうねー」


出来るだけいつもの感じで、にこやかに声をかけた。


私「寒くなかった?」


ケイくん「大丈夫です。それより眠たいですー」


私「そう良かった。えっと、あのね。(深呼吸)

この間仕事の時にね、何か変な事言ってごめんなさい。気分悪くしたよね。本当にごめんなさい。」


声が震える。

心も。

目元に涙が溢れそうになる。

ケイくんをみつめた。


ケイくん「何の事ですかー眠いし何の事か分からないです。何もなかったんじゃないですかー」


一瞬私の目を見てから、とぼけるように視線を逸らしてケイくんはそう言った。

そう言ってくれた。


私「えっとそう?本当に?怒ってない?」


ケイくん「怒ってないですよー眠いですねー」


私「ありがとう…」


泣きそうだった。


ケイくんは私が思っていたよりずっと大人だった。

私を傷つけないように、そう言ってくれたのだ。


私「本当にありがとう…。」


もう一度お礼を言ってから、チョコレートの入った紙袋を後ろの席から取り出した。


私「前にバレンタインチョコ用意してるって言ったから。良かったらどうぞ。」


ケイくん「ありがとうございます」


少し照れながらチョコレートを貰ってくれた。

謝罪は謝罪としてきっと伝わったと思う。

少し心が通った気持ちになった。


私「どうする?もう帰る?」


ケイくん「とくに何も用はないです」


私「そう?じゃあドライブする?」


ケイくん「いいですねー」


少しだけドライブする事になった。

どこに行こう。 

縦浜市の端だから、少し行けば逗司や鎌蔵がある。

私「じゃあ海岸の方にドライブしよう」