ケイくん、私、娘の3人で百貨店のうなぎ屋に到着した。

開店5分前の店頭では着物姿の店員さん達が、ちらっとこちらを見た。

日本橋に本店のあるこのうなぎ屋は、老舗らしい和風の店構え。年末に美味しいうなぎを食べるならここと即決した。きっとお値段も張るだろうが、年末だしコロナで外食はほぼ無かったから大丈夫。外食を食べられるチャンスは逃さないでおきたい。


私「映画まで1時間半くらいあるから、ゆっくり食べても大丈夫だね。」


ケイくん「そうですね、朝から何も食べてないんですよ!」


私「えっそうなの?いつも?」


ケイくん「いつも朝はそんなに食べないんですよ。あんまり食べても意味ないかなーって。」


私「そうなんだ、身体大丈夫だったらいいけど、無理しないでね。」


ついお母さんみたいな事を言ってしまう。

こんなにイケメンで優しい息子を産んだ覚えはないが、母親の本能というか習性で言ってしまう。

良くも悪くもおばさんだから仕方がない。

一瞬、ケイくんのお母さんを羨ましく思った。


娘はすました顔で、

「お母さんみたいな事言うねー。」


私「ついね、ごめんね。」


ケイくん「謝らなくていいですよ。」


うなぎ屋店員「ご予約の則天様ですか?どうぞこちらへ。」


上品な声で着物の店員さんが声をかけてくれた。

私達は顔を見合わせてから、ニコッと笑って、


私「行きますか!」


ケイくん、娘「はーい」


3人店内にいそいそと入っていった。