娘と映画に行く事は夫には話していた。

ケイくんも一緒に行くことは話していなかった。

息子も一緒に行きたいと言ったが、娘が嫌がったから、今回は2人で行くと、夫と息子には言った。

息子は友達と行くからいいと、言ってくれて助かった。

夫は、そもそも映画館で大勢と一緒に映画を観るのが苦手だから行かないと言った。

そう、夫には少し罪悪感を感じている私は、言わなくていい事を言わないことで、嘘をついていないことにして、今回の映画を正当化している。

浮かれつつ、浮かれすぎれない気持ちになるのは、良心の天秤のせいだと思う。

ここまでならこぼれないという傾き具合を、そのバランスを取ろうと必死なんだ。

その良心のバランスを取るために、今回は娘も一緒に映画に行く事になったのだ。

女子高生と一緒に映画に行けることは、ケイくんにとっても楽しみになったようで少しほっとした。
よりバランスが取れたような気がした。

待ち合わせの駅で、私と娘がケイくんを探してキョロキョロしていた。
4分の遅刻だった。

ケイくん「おはようございます」
少し離れたところから、照れくさそうにケイくんが声をかけてくれた。
黒のスポーツメーカーのジャージを、ベージュのコートの下に着ているケイくんは、少し髪を触りながら歩いて来た。
黒のデイパックと茶色の皮のスニーカー、髪はサラサラで今どきの大学生スタイルだ。

私「遅れてごめんねー。こちら娘です。
 こちら、ケイくんです。
 いつもお世話になってます。」

簡単な紹介と挨拶を交わして、少し緊張しながら3人でうなぎ屋に向かった。