外で働くと色んな人と出会う事が楽しい。
大学生、他の仕事をしながらバイトに入っている人、もちろん自動車会社の社員さん達、出入りのクリーニング業者などなど。
それぞれみんな個性的で、意欲的に仕事をしている。活気のある職場の人達と一緒に働ける事が嬉しく、背筋がグッと伸びる。
「とにかく真面目に生きろ」
「消しゴムで消す文字は綺麗に消せ」
父から言われた言葉で、私の中に残っている言葉。
いつも野球と仕事のどちらかの明るい父が、いつになく真面目な顔で子供の私に言ったからよく覚えている。
日常生活の中でほとんど思い出す事はないのに、時折悩み迷う時にふと蘇る言葉。
ケイ「おすすめの恋愛小説はありませんか?」
ケイくんは恋愛小説がやっぱり好きみたい。
改めて聞かれて、恋愛小説はほとんど読まないことに気がついた。
ビジネス、実用本、資格試験の本、心理学、民間伝承、哲学本、料理などなど私の読む本はいかに自分の興味を満たすかと役に立つかを軸に選んでいる。
恋愛は本ではなく、実践主義だった。
好きな人へのアタックは惨敗だけど。
好きすぎて好きすぎて重くなる。
好きすぎて彼のことしか見えなくなる。
そんな自分から好きになると全然上手くいかない恋愛を重ねて、受け身になってしまった。
ひょっとしたら、もっと恋愛小説を読んでおいた方が良かったのかもしれない。
私「おすすめがあったら私の方が知りたいよ。」
ケイ「キミスイとかは?」
話題の恋愛小説は、名前とあらすじは知っていた。でもまだ読んでないし、映画もアニメも観ていなかった。
私「ありがとう、良かったら貸してね。」
ケイくんは、次のシフトの時にその本を貸してくれた。
こういうやりとりっていいな、青春って感じがする。
借りた本を大事にカバンにしまった。
ほんの少し後ろめたさを感じながら。