スナップバック制裁とは以前にアメリカおよびヨーロッパ諸国とイランとの間で結ばれた核合意(JCPOA)に含まれているもので、イランが合意に違反した場合に国連の安全保障理事会にかけることなく独自の判断で国連がかけていたイランに対する制裁を再開することができる。これらはイランが核合意を破ることを抑止することを目的に作られていた。
このスナップバックの機能が今年の8月に期限が切れることが決まっていた。このことは私も以前から知っていたが、そのことについて何が問題になるのかがいまいちわからなかったが、今回トリタ・パルシの記事を読んでそれがとても危険なことになることがわかった。
https://www.theamericanconservative.com/on-iran-trump-should-resist-the-zero-enrichment-fantasy/
フランスとドイツ、イギリスはこのスナップバック機能が無くなる8月以前にこの機能を使おうとしているらしい。
イランはヨーロッパ諸国がもしスナップバック制裁を発動した場合について、イランは核合意から離脱するだけでなく核拡散禁止条約(NPT)からも離脱してIAEAの査察官を全員退去させると警告している。
もしヨーロッパ諸国がそれでもスナップバック制裁を発動し、イランがNPTから脱退した場合には90日間の猶予が与えられその間にイランの気が変わったらまたIAEAに戻ることも可能である。そこでヨーロッパ諸国はスナップバック制裁を6月に発動し、イランがそれでNPTから脱退し、猶予の過ぎた90日間後にもイランがIAEAに戻る気が無ければ8月以降も制裁を続けることができるという算段だ。
一方このまま何もしないで8月を迎えると、それからはイランに対するスナップバック制裁の機能がなくなってしまい一方的にイランに対する経済制裁はかけられなくなる。イランに対する制裁を国連の安全保障理事会にかけようとしても現在のロシアや中国は安易に賛成しないだろう。
イランとアメリカとの新たな合意ができることを期待してイランに対する圧力とアメリカに対する側面支援のためにスナップバック制裁を6月に発動するわけだ。
本当にヨーロッパ諸国がパルシの言う通りにスナップバック制裁を発動するなら、私にはそれはヨーロッパが自分たちの役割を過信した危険な火遊びにしか見えない。イギリス、フランス、ドイツはこれで戦争が起きたら責任が取れるのだろうか。
1994年に北朝鮮の核兵器開発が発覚して北朝鮮とアメリカの間で一悶着があった。その時北朝鮮はNPTから脱退し、アメリカは真剣に北朝鮮の核施設を空爆することを考えていたのだ。
この時は先日亡くなったカーター元大統領と金日成の間で話し合いが行われてアメリカの空爆は避けられた。当時、韓国も日本もアメリカの北朝鮮空爆には反対だった。
結局北朝鮮は核兵器を持ってしまったのでこの外交がうまくいったとは言えないが、あの時アメリカが北朝鮮を空爆していたら、韓国を含め東アジアはどうなっていたのだろうか。
イランがNPTから本当に脱退した場合にこの問題が平和裡に解決することはまず考えられず、イスラエルもアメリカも武力に訴えることは確実でそうなれば中東は火の海になってしまうだろう。
ガザ戦争の最中に行われたイランとイスラエルの間でのミサイルの撃ち合いにおいて主要なマスコミではイスラエルのミサイル防衛が機能してイランのミサイル攻撃は全く無駄のような書かれ方をしていたが、パルシによれば事実ではなく「とても効果的で、イスラエルの対空防御、アイアン・ドームやアロー、デビッドのスリング、パトリオットを突き破った。」と書いています。
もしこれが本当ならば、アメリカのジャーナリストであったバーバラ・タックマンが第一次大戦を描いた有名な本にThe Guns in August、日本語では『8月の砲声』と訳されていましたが、文字通りのことが起きることを危惧しています。