渡辺惣樹さんと福井義高さんの対談本である『「正義の戦争」は嘘だらけ』を読み終わったので感想を書いてみたいと思います。

 

この本はアメリカのランド・ポール議員が言ったとされるロシアの「侵攻に正当性はないが理由はある」という観点から、外国の本などをかなり読み込まれている2人が今回のウクライナ戦争にとどまらず、近代史に対する疑問点を語り合ったものです。

 

両者ともが共通していることは、やはりネオコンの存在で渡辺さんは前書きで「彼らのルーツは世界革命思想家レフ・トロッキーにあり、世界統一政府による世界の人民のコントロールを目指している」と書かれています。

 

現在アメリカで国務次官を務めるヌーランド女史はネオコンで有名なロバート・ケーガンの嫁で2014年のウクライナのマイダン革命でデモ隊の先頭を務めていた人がいつの間にかバイデン政権で国務省ナンバー2の地位にまで上り詰めているわけですから、「アメリカの対ウクライナ外交(実質はロシア外交)がいかなるものになるかは火を見るよりも明らかだった」と渡辺さんは書いています。

 

その結果、私もこの本で初めて知ったのですが、前カーネギー・モスクワ・センターのドミトリー・トレーニンという以前はプーチンの外交に批判的な知識人がいたのですが、今回の戦争で態度をガラリと変えたそうです。

 

「トレーニンは、米国とその同盟国は冷戦期のソ連封じ込めとは質の違う、世界政治における独立の主体としてのロシア除去とロシア経済の完全な破壊を目的としているとしてプーチンのもとにロシア人は団結せよと訴える」ようになったそうです。

 

前回私のブログで今回の戦争はアメリカに大いなる責任があると主張するミアシャイマー教授の論文の内容は戦前に満州事変を見てメモランダムを書いたジョン・マクマリーとそっくりだと書いたのですが、この本で福井教授もマクマリーの本を取り上げて、「ロシアのウクライナ侵攻に関するミアシャイマー教授の見解を彷彿とさせます」と語っていて同じような感想を持った人がいて嬉しかったです。

 

さらに福井教授は「満州での中国の形式的主権を認めていれば、国際連盟からの脱退もなく、日本の行く末は大きく異なっていたでしょう」と語っています。

 

ミンスク2の合意はドンバス地方はウクライナからの独立は認められないが自治は認められるという満州におけるリットン調査団の勧告に似ていたのですが、これを拒否して遵守しなかったのはウクライナ側だったのだ。だからと言ってロシアのウクライナ侵略が許されることはないのだが。

 

いずれにせよ、今回の戦争においてはロシアが考える自国の安全保障(ウクライナを絶対にNATOに加盟させない)こととアメリカのNATOを使った一極支配という問題が絡んでいるので、簡単に終わりそうもない。

 

今回のウクライナ戦争をもっと幅広い歴史的な観点から考えてみたい人にとってこの対談は参考になると思います。