現在のアメリカの外交がある有力な集団のロビー活動によって歪められているのではないかという懸念は私が発見したものではなく、早くも2007年にシカゴ大学のジョン・ミアシャイマー教授とハーバード大学のスティーブン・ワルト教授の『イスラエル・ロビー』という本が指摘しています。

 

今回ジョージ・ケナンの回顧録でケナンがユーゴスラビア大使をしていた時の話を読んで、ほとんど同じことが現代においても繰り返されているのではないのかと感じた次第です。

 

私も『イスラエル・ロビー』は発売されてからすぐに読んだのですが、さすがに10年以上も昔なので細部のことまでは思い出しませんが、おおよそのことは記憶にあります。

 

AIPACなどのユダヤ系アメリカ人からなるイスラエル・ロビーはイスラエルの国益とアメリカの国益は本来別個なものだが、それがあたかも全く同じようなものだと考えて行動する。

 

基本的にイスラエル・ロビーの活動は選挙資金の提供を含め、アメリカの法律に違反しているものではないが、その活動が本当にアメリカの国益に沿っているかはかなり疑問であることをこの本は強調していました。

 

ただこの本の著者たちは、イスラエル・ロビーがアメリカの外交を決定しているという陰謀論は否定しており、それは大統領のリーダーシップにより防ぐことができると書いていたように思います。

 

そのことを如実に示したのが、2015年7月に結ばれたイランとの核合意だったのです。イスラエル・ロビーは最後まで反対しましたが、オバマ大統領の努力によってこの合意は可能になったのでした。オバマ大統領の最大の成果だったと私は今でも思っています。

 

『イスラエル・ロビー』の著者の一人であるスティーブン・ワルト教授もこの合意が結ばれた時に『フォーリン・ポリシー』のコラムに次のように書いています。

 

「イラン革命以来、国連が厳しい経済制裁をかけてから、いかにしてイランをこの『ペナルティー・ボックス』から徐々に脱出させることができるかどうかが課題になってくる。このペナルティー・ボックスから脱出できればイランの経済は回復し、ワシントンとテヘランの外交関係が復活することに道を開き、徐々にこの両国の関係がもっと普通にビジネス・ライクなものになることを可能にするだろう。」

http://foreignpolicy.com/2015/04/12/iran-nuclear-deal-obama/

 

アメリカとイランの核合意が結ばれたと言って、急に友好関係になるわけではないがビジネス・ライクな付き合いはできるのではないかと教授は書いたのでした。

 

私も当時はイランとアメリカが戦争になるのではないかと恐れていましたので、この合意が結ばれた時にホッとした気分になったことを覚えています。

 

ただ残念ながら事態はワルト教授が予想するようには展開しませんでした。

 

この後にアメリカでトランプ大統領が当選してイスラエル・ロビーやイスラエル本国のネタニヤフ首相が望む方向で、イランが合意を遵守しているのにも関わらず、一方的に合意を破棄し、さらにmaximum pressure(最大限の圧力)政策で更なる経済制裁をイランに課したのでした。

 

その結果、核合意が結ばれた時点ではイランが核兵器を作るのに一年ぐらいはかかるのだろうと言われていましたが、現在は1ヶ月以内で核兵器を作ることが可能な状態になっているそうです。

 

それゆえ我々はまたアメリカとイランが戦争をするか、それともイスラエルとイランが戦争しアメリカが巻き込まれていく心配をしなくてはならない状態に追い込まれているのです。

 

現在、イランとアメリカと同盟国の間で核合意に復帰する協議が行われていますが、かなり不透明な状態です。