これまでジョージ・フリードマンの『静けさの前の嵐』で示されたアメリカで80年ごとに起こる「制度的変化(Institutional Change)というものは実はアメリカにおけるローカルとグローバルの対決ではないのかという観点から書いてきたのですが、トランプ大統領が当選した理由も冷戦後のアメリカのグローバルな政策が失敗したからではないかと推測することができると思います。

 

ただトランプ大統領の当選を持ってアメリカのローカル派が完全に勝利したとも言えないので、これからどうなるかを含めて少し考えてみたいと思います。

 

以前に英国のブレグジットがなぜ起こったのかについてイギリス人ジャーナリスト、デヴィッド・グッドハートの『The Road To Somewhere』という本を紹介したことがありますが、同じような内容でアメリカ人のマイケル・リンドという保守系の評論家の『The New Class War』でなぜトランプ大統領が当選できたのかを考察した良い本があるのでそれを参考にしてみます。

 

リンドは「平均的なアメリカ人は、母親と30キロ以内の距離に今でも住んでいることを知ればびっくりするかも知れない。57%のアメリカ人は自分の産まれた州の外部には出たことがなく、37%のアメリカ人は軍役や大学に通う期間を除いて一生を生まれ育った場所で過ごす。」とこの本で書いています。

 

イギリス人のグッドハートが「英国に住む3/5の人たちが14歳に住んでいたところから30キロ以内しか離れていないところで今も暮らしている」と書いたように、アメリカでも57%の人たちは自分の産まれた州から出たことがないというアメリカ人の大半は今でもローカルな存在なのです。

 

ところが、アメリカにおいてもこのローカル層である白人の労働者階級に現在大変な危機が訪れているのです。アメリカの経済は冷戦が終わってから30年間、日本と比べると遥かに経済成長しているのですが、白人の労働者階級はその恩恵に預かる事ができませんでした。

 

このような経済的苦境に加えて、心理的な苦痛からオピオイドなどの痛み止めを過剰に摂取する人が出てきて、フランスの学者エマニュエル・トッドが指摘するように平均寿命が短くなるという先進国ではありえない状態に至ったのでした。リンドはこのような苦境に陥った白人労働者層がトランプの当選に大きな影響を与えたと書いています。

 

この白人の労働者階級がグローバリゼーションの広がりでほとんど恩恵を受けられなかったのに比べて、一貫してグローバリゼーションを推進していたのが次のような人たちだったとリンドは書いています。

 

「ヨーロッパとアメリカにおいて10人のうち3人が大学卒業の資格を持っている。この3割の人たちがほとんどの政府、ビジネス、メディア、非営利団体に人材を供給しているのだ。」

 

この大卒であるリンドがManagerial Elite(管理エリート)と呼ぶ層が熱心にグローバリゼーションを広めて、白人の労働者階級を現在の状態に追い詰めたのだというのです。

 

続く。