中国問題を書いていたのですが、興味を引く問題が出てきたのでそちらの方を少し書いてみたいと思います。

 

前回のブログで指摘した雑誌『クライテリオン』での「中華未来主義」の対談が面白かったので、対談者の一人である輿那覇・潤(よなは・じゅん)氏の『中国化する日本』という本を読んでみました。

 

この本を読んで私が一番なるほどと思ったことは、源氏と平家の対立の理由を輿那覇さんが解釈されている部分でした。

 

平清盛が後白河法皇と組んでやろうとしたことは、その当時の中国を統治していた宋と貿易を行い、宋で流通していた宋銭を日本国内でも流通させて、「荘園制に立脚した既存の貴族から実権を奪い取っていく」ことに目的があったと書いておられます。

 

日本国内で宋銭の人気が高まれば、宋銭の価値は高まり、反対に国内の物価に対して下落圧力がかかるでしょう。いわゆるデフレです。

 

この状態で荘園でモノを作っても、全然儲からなくなってしまったのです。

 

これにブチ切れたのが荘園を運営する貴族達で、源氏というのは「荘園制に依拠する諸権門に雇われた、よくいってボディーガード、悪くいえば利権屋ヤクザ集団」だったそうです。

 

つまり源平合戦というのは平清盛が行ったグローバルな経済政策に対して不満を抱いたローカルを代表する源氏が挑んだ戦いで、鎌倉幕府というものは輿那覇さんが指摘するように「反グローバル」を標榜する政権であり、最初にやったことは宋銭の流通を廃止することだったそうです。

 

この解釈が本当に正しいのかは私にはわかりませんが、なぜこの部分が強烈な印象を与えたかと言えば、これとほとんど同じような話を英語の本で最近読んだからでした。

 

それはイギリス人ジャーナリストのデビッド・グッドハートが英国のEUからの脱退、いわゆるブレグジットについて考察したThe Road To Somewhereという本です。

 

グッドハートはこの本でブレグジットの背景をSomewhere(どこかに)派とAnywhere(どこでも)派との対立として描いています。

 

Somewhere派は次のような人たちを指しています。

 

「こんにち、およそ5人に3人の英国人は14才のときに住んでいたところから30キロ以内に今でも住んでいる」

 

英国と言えば、日本が明治維新で大政奉還(1867)を行う4年前にロンドンで地下鉄を走らせ、全盛期には世界の人口や土地の1/4を支配していたという凄い国という印象から、さぞ国内での人口移動も激しいに違いないと思っていたのですが、大半の人たちは中学2年生のときに住んでいたところから30キロしか離れていないところで今も生活しているのです。

 

つまり交通やインターネットが極度に発達した現在でも大半の英国人の生活はローカルなものに根差しているのです。

 

これに対するAnywhere派という人たちは、受験勉強に勝ち抜き、地方から大都市の全寮制の大学に通い、卒業すればロンドンの銀行や証券、コンサルタント会社などに就職する人たちを指します。

 

グッドハートによればSomewhere派が人口の50%を占め、Anywhere派は25%で人数だけを比較すれば、圧倒的にSomewhere派が有利なのですが、残念ながら政治を主導している保守党や労働党の幹部はほとんどがAnywhere派出身なのでした。

 

さて、この政治の中枢を担っているAnywhere派が信奉している政策がネオ・リベラル(新自由主義)政策、通称ネオリベと呼ばれるもので、その内容は規制緩和、自由化、自己責任という日本人にとっても馴染みのあるものです。

 

このAnywhere派の行ったネオリベ政策がSomewhere派の利益を著しく侵害し、それに怒ったSomewhere派がブレグジットを選んだというのがグッドハートの筋書きです。

 

1980年代にネオリベの元祖と言われるサッチャー女史が政権につき、徹底した規制緩和や自由化を始めます。その結果イギリスにあった工場は海外に移転してしまい、Somwhere派にある程度の余裕のある生活をおくれる賃金の貰いどころが無くなってしまったのです。

 

さらにSomewhere派に追い討ちをかける事態が起こります。冷戦が終了し、EUが東方に拡大してしまったために、ポーランドを始めとする東欧からの移民が激増し、イギリスの労働者より安い賃金で喜んで働くようになったのでした。

 

このような事態に英国のSomewhere派の堪忍袋の尾がきれて、ブレグジットに対する賛成票が反対票を上回ったのが、グッドハートの本の内容なのでした。

 

このブレグジットについての説明が最初に書いた輿那覇さんの指摘する源平合戦の解釈にあまりにも似ていることが私にとって驚きだったのです。

 

今から900年前の源平合戦も現在進行中のブレグジットの問題もグローバルなものとローカルなものとの対決であり、媒介するものは宋銭とネオリベ思想という違いはありますが、基本的には同じようなモデルとして提示できるのです。