私がこれまでこのブログで書いてきたことは、イランという中東における重要な国がなぜかプロイセン型の国家体制(戦前の日本のような)を持っており、それがアメリカと対立して危険な状態に至っているということでした。
ではアメリカとイランが実際に戦争になった場合にどういう事態が引き起こされるのでしょうか?
イランとアメリカが戦争になった場合、この戦争は決して2国間に限定されるものではなく、中東全体を巻き込んだ第3次世界大戦のようなものになることが確実だということです。
イギリスの歴史家、ドミニク・リーベン教授はその著書『炎に向かって』という本の中で、第一次世界大戦で重要な出来事は西側で起こったドイツとイギリスやフランスとの戦いではなく、東側で起こったドイツとロシアの地域覇権をめぐる戦いであったと書いています。
このドイツとロシアの地域的な戦いは、結果的にロシアの共産化を招いてしまうのです。
第2次世界大戦の極東で起こったことも基本的には同じです。日本はアメリカと戦う前に中国と東アジアでの覇権争いをしていたのです。
この日本と中国の戦いの結果、中国も共産化してしまうのでした。
ではアメリカとイランが戦争になった場合に、私が懸念することは、シーア派のイランが地域的ライバルであるスンニ派のサウジアラビアに必ず手を出すだろうということです。
そうなった場合サウジアラビアの体制が脆弱で簡単に転覆する可能性があることです。第一次大戦時のロシア、第二次大戦時の国民党中国のような結果を招く気がするのです。
歴史家の渡辺惣樹さんが以前に訳されたマリン・カツサという人の『より冷たい戦争』にサウジアラビアについての興味深い記述があります。
「この国には政党は存在しないし、組合も無い。サウジ王家の一員が行なっている支援団体以外に社会的な団体も存在しない。もしサウジ王家が崩壊したら、その真空を埋めるのはイスラム主義者だけだ。」
「サウジのイスラム主義者は最も厳格で反動的なワッハーブ派に属するものであり、ビン・ラディンの仲間でもある。」
この本では脆弱なサウジアラビアの体制が崩壊してビン・ラディンのような人に国家が乗っ取られて、シーア派のイランに戦いを挑むという風に書かれていましたが、私はアメリカとイランが戦争になった時にイランがサウジに手を出すのではないかと考えています。
おそらくイランとアメリカが戦争になればイランは最終的には負けるでしょう。しかしながらイランはアメリカのCIAに転覆されるモザデク政権という民主的な政権を自力で勝ち取った時代に戻ればいいだけです。
しかし本当にサウジアラビアがこの戦争によって転覆し、ISのようなものに乗っ取られたらアメリカはどうするのでしょうか?
サウジアラビアは産油国の中心であり、その国が西側に石油を売ってくれなくなったら、急いでイランの石油産業を立て直さなければならないという馬鹿みたいな結果になりかねないのです。
アメリカとイランの戦争は決して誰の利益にもならないでしょう。
