鈴木衛士さんはその著書『北朝鮮は悪じゃない』という本で「北朝鮮が抵抗するような場合には、米国の軍事攻撃に先んじて中国が北朝鮮に軍事介入する可能性が高いと考えます。」と書いています。

 

本当にそのような可能性があるのでしょうか。今回はこの問題について書いてみたいと思います。

 

まずはじめに中国と北朝鮮の関係について、トランプ政権の首席補佐官を務めたものの政権内の不和から放逐されたスティーブ・バノンはNHKのインタビューで次のように語っています。

 

「私は政権発足当初から、北朝鮮情勢はアメリカから中国に引き渡されるべきだと考えています。つまり、両国間で直接交渉が行われるべきで、私は当初からそう言っていました。私は、中国が絶対的な支配を掌握している存在だと考えています。そして北朝鮮は中国の従属国家だと思います。私はそれについては、かたくなな考えを持っています。何らかの交渉や北朝鮮をめぐる動きがあると、人々は本来目を向けるべきものから注意をそらしてしまいます。アメリカは中国に圧力をかけ続け、北朝鮮に事態を沈静化させるようにすべきです。」

 

中国は北朝鮮の生存に必要な食料や石油などの燃料を無償で供与しており、中国がこれをやめてしまえば北朝鮮が崩壊するかもしれないという点で、バノンが「中国が絶対的な支配権を握っている」という描写は一見正しいように見えますが、北朝鮮が素直に支配者の中国のいうことを聞くかと言えば、それはあり得ないのです。

 

日本の外務省の元次官であった藪中三十二氏は『核と戦争のリスク』という本の中で、彼が6カ国協議の中で見た中国と北朝鮮の関係について、こう書いています。

 

「北朝鮮が中国に恥をかかせるのも平気で 、全然言うことをきかない 。中身は 『こんなのどっちでもいいや 』という内容だけれど 、絶対 『うん 』と言わないという姿でした 。」

 

なぜ絶対的な支配権を持っている中国に従属しているはずの北朝鮮がこのような態度をとれるのでしょうか?

 

私の推測では、北朝鮮の中国に対するこのような態度は北朝鮮が朝鮮戦争の教訓を十分に学んだことにあると考えています。

 

毛沢東は金日成が韓国に侵攻することに反対でしたが、金日成は毛の意見を無視して南進します。

 

ところが、アメリカの反撃にあい、北朝鮮という国が無くなりそうになった時に南進に反対していた毛沢東が参戦して北朝鮮を救ってくれたのです。

 

金一族の朝鮮戦争の教訓は「中国の言うことを無視して危険な目にあっても最後には中国が助けてくれる」というものだったのです。

 

そこでバノンが指摘したように中国が北朝鮮に対して絶対的な支配権を握っているように見えますが、北朝鮮は決して中国のいいなりにならないのです。あれだけ朝鮮戦争に反対していた毛沢東が最後には参戦して我々を助けてくれたのではないか、と。

 

中国が無償の石油や食料をカットしてしまえば、北朝鮮は崩壊するかもしれないので中国はそうすることができない。一方、朝鮮半島の非核化を中国は望んでいるが、北朝鮮はそれを平気で無視し、またアメリカとの戦争の危機を誘発している。

 

このようなジレンマを持っている中国にとって唯一可能性があるのが北朝鮮への軍事的な介入なのです。

 

続く。