少し遅れましたが、プーチン・安倍会談について書いてみました。

 

私は以前からロシアのプーチン大統領が北方領土について「引き分け」を主張していたのは1956年の日ソ共同宣言で平和条約の後に歯舞と色丹の2島を返還することだと解釈していたのですが、今回のプーチン大統領の来日でわかったことですが、残念ながら領土問題はおもいっきり後退してしまいました。

 

プーチン大統領は「1956年の日ソ共同宣言は2島の日本への返還を想定しているが、どのような基礎の上で行われるのかは明らかではない。確かに共同宣言は発効したが、そこには平和条約締結の後に、とも記されている」と語っています。

 

この発言に関して東洋大学の薬師寺教授は「引渡しは主権を含むのか施政権などそれ以外にとどまるのか明確ではないというのだ」と解釈しています。

 

なぜプーチン大統領はこんなもって回った言い方をしたのでしょうか?

 

ちなみにロシア通である鈴木宗男氏や佐藤優氏もプーチン大統領は2島返還は受け入れるとずっと言ってきたのです。

 

『朝日新聞』の英語版に興味深い記事が出ていましたので重要部分を訳してみます。

 

「12月14日ロシアの主要なメディアは同日の朝日新聞に記載されていた11月に開かれた谷内正太郎国家安全保障補佐官とロシアのカウンターパートであるニコライ・パトゥルシェフの会談の内容を報じた。

  谷内補佐官はパトゥルシェフ補佐官に対してロシアが日本に北方領土を返還した場合に米軍の基地を置く可能性を示唆した。」

http://www.asahi.com/ajw/articles/AJ201612160060.html 

 

私は谷内補佐官のこの発言がプーチン大統領のパラノイアに火をつけた可能性があると思っています。

 

プーチン大統領がクリミアに侵攻したり東部ウクライナに対してちょっかいを出すようになった理由はそれまでロシアの勢力圏だと考えられていた地域(ポーランドやバルト三国)にアメリカの主導するNATOが拡大してきたからでした。特にウクライナに対して親露政権を倒して西側寄りの人物を擁立したのがプーチン大統領の我慢の限界でした。

 

イギリスのドミニク・リーヴェン教授は『炎に向かって』という本の中で「ウクライナの人口と工業と農業がなければ19世紀前半のロシアは大国ではなかっただろう」と書いています。

 

現在でもナショナリスティックなロシア人はウクライナは外国だとは考えていないのです。

 

そこで谷内補佐官がどういう理由で北方領土に米軍基地を置くという発言をしたかわわかりませんが、プーチン大統領にしてみたらそれは極東版NATO拡大に見えたに違いありません。

 

オバマ大統領とプーチン大統領の対立に谷内発言が重なって2島返還すら不可能になってしまったのです。

 

このような安倍首相の北方領土外交は彼の韓国に対する慰安婦外交と同じくらい悲惨な結果を日本にもたらしましたが、私はロシアの方がまだ救いがあると思っています。

 

なぜなら、韓国やロシアに対して安倍総理が働きかける最大の理由が両者の中国寄りの外交を修正させようとしているからです。

 

ただ韓国が中国包囲網に加わることはほとんど考えられませんが、ロシアは中国に対して潜在的な恐怖を感じているためにそれが不可能だとは思いませんが、一番足枷になっているのがアメリカとロシアの対立なのです。

 

ところがトランプ氏が大統領になることが決まり、彼の従来からの発言が正しければアメリカとロシアの雪解けの可能性が見えてきます。

 

そうなればロシアが中国と組んでアメリカと対抗する必要がなくなるためにロシアの中国寄りの外交を修正できる見込みがあります。うまくいけばロシアを中国包囲網に組み込める可能性も出てくるのです。

 

というわけで、ロシアとの領土問題は悲惨な結果に終わりましたが、そんなに悲観的にならなくてもいいのではないかというのが今回の感想です。