アメリカの第一回大統領選討論会でヒラリー・クリントン候補が優位を勝ち取ったことで、このままヒラリーで決まりではないかという意見が出てきましたが、果たしてそうでしょうか?
今回はトランプ候補の侮れないその思想的背景について少し書いてみたいと思います。
イギリスの『ガーディアン』にトランプ候補に先立って彼と同じことを主張していた人物を取り上げています。https://www.theguardian.com/news/2016/aug/16/secret-history-trumpism-donald-trump?CMP=share_btn_tw
このなかで書かれているサミュエル・フランシスについて要約してみます。
サミュエル・フランシスは1996年にパット・ブキャナンに対して再度大統領選に出ることを勧め、3つのことを重点的にうったえようと主張しました。それは「保護主義、反移民、アメリカ・ファーストの外交」というものでした。
ブキャナンは彼の意見を入れて緒戦では健闘しますが、徐々にエスタブリッシュメントに妥協することになり、最終的に失敗してしまいます。
ブキャナンの大統領選挙の失敗の後、フランシスは共和党から離れ、「人種政治(racialpolitik)」というものに取り組みます。フランシスはそれは白人優位主義とは違うと主張しますが、彼は異なる民族とのセックスを否定し、人種戦争について警告し、白人国家主義者に対して「アメリカの国民と政府は、その構成と特徴がヨーロッパであり続けるべきだ」と主張したのです。
サミュエル・フランシスが強調する「アメリカの国民と政府は、その構成と特徴がヨーロッパであり続けるべきだ」(原文では “The American people and government should remain European in their composition and character."となっています)という主題はパット・ブキャナンの本においても彼の一貫したテーマにもなっています。
ただ私としてはいくらパット・ブキャナンがトランプ候補と似ているサミュエル・フランシスと同じようなことを主張しても、それが大統領選挙に影響を与えるとは思っていませんが、故サミュエル・ハンチントンが同じようなことを主張していたらそれは全く次元が違うことなのです。
サミュエル・ハンチントンはアメリカの政治学者で『文明の衝突』を書いたことは有名ですが、彼は死ぬ直前に Who Are We? という本を書いているのですが、この本のテーマがまさしく「アメリカの国民と政府は、その構成と特徴がヨーロッパであり続けるべきだ」というサミュエル・フランシスと同じようなものだったのです。
サミュエル・ハンチントンがこのような本を書いたことはどうもアメリカではタブーになっているようで、教え子であるはずのフランシス・フクヤマやファリード・ザカリアもこの本については全く触れず、トランプの悪口ばかり書いているのです。
私も当初 Who Are We? を読んだ時は少し人種主義的なものを感じたのですが、今から振り返ってみてもトランプ的なものを予想していたのだと感じています。やはりハンチントンはすごい人物だったのです。
ということでアメリカのホワイト・ナショナリスト達にとってトランプの主張は何か共鳴するものがあるに違いなく、安易にヒラリーが大統領になるとは思えないのです。