前回は仮想敵をどこに置いていたかという観点で日英同盟の推移を見てきたわけですが、今回は第2次大戦前後に日本とドイツとイタリアの間で結ばれた防共協定と三国同盟について書きたいと思います。

 

この2つの条約の仮想敵国は全く異なります。

 

防共協定の仮想敵国はソ連でしたが、三国同盟の場合はアメリカだったのです。

 

日本がソ連が率いるコミンテルンに脅威を覚え、ソ連を仮想敵とした防共協定を結びますが、直後にヒトラーのナチス・ドイツは日本を裏切り独ソ不可侵条約を結びます。

 

このドイツの裏切りによって日本は衝撃を受けますが、犬猿の仲と思われていたドイツとソ連が結びついたことで新たな地平線が開かれたのです。

 

防共協定が結ばれた時には存在しなくて三国同盟を結ぼうと日本が考えた時に存在したのは泥沼化した日中戦争でした。

 

外務大臣の松岡洋右は日本とドイツとイタリアの枠組みにソ連を組み込もうと考えたと三宅正樹さんは『日ソ独伊連合構想』という本に書かれています。

 

このユーラシア大陸のブロックができれば、1、日本とソ連が中国を挟み撃ちにすることで日本に有利に日中戦争を解決できる。2、ユーラシア大陸を結ぶブロックを作ることでアメリカを抑止することができ、国力の違う日本とアメリカの間で対等な交渉ができると考えられたのでした。

 

この壮大なアメリカを仮想敵とする「日ソ独伊連合構想」が完成していれば第2次世界大戦の帰趨はずいぶん違ったものになったと思われますが、またしてもヒトラーが日本を裏切り今度はソ連に攻め込むという愚を犯すのです。

 

ドイツとソ連の戦争により、日本は「日ソ独伊連合構想」を捨てなくてはならなくなり、近衛文麿首相は松岡外相を放逐してアメリカと交渉することを選択しますが、結局はうまくいきませんでした。

 

ところで、「日ソ独伊連合構想」のようにユーラシア大陸をつなぐブロックを作ってアメリカと対抗するという政策は単なる歴史の一齣と私は思っていたのですが、そうではないという記事がアメリカの『フォーリン・ポリシー』という雑誌に載っていました。

http://foreignpolicy.com/2016/07/27/geopolitics-russia-mackinder-eurasia-heartland-dugin-ukraine-eurasianism-manifest-destiny-putin/

 

この記事によればロシアにアレキサンダー・ドゥーギンという地政学を研究する学者がおり、ロシア軍を通じてかなりの影響力を持っていると書いてあるのですが、このドゥーギンという学者が提唱している案が「日ソ独伊連合構想」に酷似しているのです。彼の案は次のようなものです。

 

「ドゥーギンの主要な議論は(ドイツの地政学者である)ハウスホーファのものからきている。アメリカやNATOが新たに作った(東欧の)独立国を使ってロシアを封じ込めようとする『大西洋主義』の陰謀を阻止しなければならないと説き、そのためにはソビエト連邦を復活させ、賢い外交を行って日本、イラン、ドイツと組んでアメリカとその大西洋主義者をユーラシア大陸から追い出すべきだと主張している。」

 

ロシアのプーチン大統領がなぜNATOや日米安保を廃止しかねないトランプに対して色目を使うのか、またなぜプーチン大統領が安倍首相とうまくやっていこうと考えているのかが私にはわかった気がします。

 

プーチンは近衛内閣が考えた「日ソ独伊連合構想」と同じようなユーラシア大陸ブロックを作ってアメリカと対決しようとする壮大な計画を持っているようなのです。

 

うまくいくかどうかは今の時点では私にはわかりかねます。

 

いずれにしろ、ソ連を仮想敵にした防共協定もアメリカを仮想敵にした三国同盟もヒトラーの裏切りにあい成功しなかったのは間違いのないことなのです。