今回はトランプ現象がアメリカの政治、外交に及ぼす影響を考えてみたいと思います。

『アトランティック』誌に共和党の戦略家であるデイヴィッド・フラムがトランプ氏を支持する層について書いていたので重要部分を訳してみました。

「世論調査会社のYouGov.によれば共和党でトランプ氏を支持する人々の半分は高卒かそれ以下である。大卒やそれ以上の学歴を持つ人は19%しかいない。38%は収入が5万ドル以下で、10万ドルを稼ぐものは11%しかいない。」

「他の共和党とトランプ氏の支持者が異なるのは経済的な不安感と経済ナショナリズムである。63%のトランプ支持者は不法移民の子どもにアメリカ国籍を与えることに反対ーこれは通常の共和党員よりも10%高い。そしてトランプ支持者はオバマ大統領が外国人で危険なものと考えている。PPPという調査会社によれば21%の人だけがオバマ大統領がアメリカで生まれたと思っており、66%の人が大統領はムスリムだと思っている。」

つまりトランプを支持する人々は、アメリカ白人の中・低所得者層なのです。

このことについてピーター・バイナートというアメリカの評論家がウォルター・ラッセル・ミードの本から引用して、トランプ氏の支持層はジャクソン主義者たちであると指摘しています。

ミードは”Special Providence” という本でアメリカの外交思想を4人のリーダーの考え方の違いから類型化しています。

それは、ハミルトン、ジェファーソン、ウィルソン、ジャクソンというわけかたになっています。

以前私がジャクソン主義をこのブログで取り上げた時に「白人プロテスタントの中位、下層階級」の考え方と書きましたが、これはフラムが取り上げたトランプを支持する人達とぴったりと重なるのです。

では、ジャクソン主義者の考え方というものはどういうものなのでしょうか。

それは前にも書いた通りジャクソン主義者は基本的に外の世界に関心を持たず、アメリカが「世界」全体であるという認識を持っています。

その上で、戦争などでやられたら徹底的にやり返すという特殊な傾向を持っているのです。国際法など全く眼中にありません。

このことをジョージ・ケナンが『アメリカ外交50年』でうまく説明しています。

「いわば一昨日までは、われわれと他国の間で争われている問題は、一人のアメリカ男子の生命を犠牲にするほどの値打ちもなかったのに、今日になれば外のことは全く問題にならず、われわれの目的は神聖なものであり犠牲など考慮する必要はない、無条件降伏を実現するまで戦い続けるということになる。」

「孤立主義」と「無条件降伏」とはコインの表と裏の関係なのです。

ケナンはこのように急激に変化するアメリカの態度について「民主主義は憤怒に狂って戦う」とも表現しています。

ちなみに先の大戦においてアメリカの「孤立主義」を「無条件降伏」に変換させたのは山本五十六提督の真珠湾攻撃だったわけで、山本が本当にアメリカのことを正確に理解していたのかは疑問に思うところです。

いずれにせよトランプ現象の背景にはグローバリゼーションに取り残されたアメリカ白人の中・低所得層のエスタブリッシュメントに対する「怒り」が明白に存在するのです。

ちなみに精神的貴族であるケナンはこのような考え方が嫌いで、次のように指摘しています。

「民主主義というものは、この部屋くらいの長さの体と、ピンの頭ほどの頭脳を持ったあの有史前の巨獣に、不愉快なことだが似ているのではないかと私は時々思うことがある。」

この文章の「民主主義」という部分に変わって、トランプ候補を挿入するとピタリと当てはまるのが不思議です。