安倍総理が靖国神社へ参拝しました。思いもよらないタイミングだったのでびっくりしています。

今回の参拝について私は嬉しかったのですが、一抹の不安があることも事実です。今回はそのことについて書いてみます。

数日前に私はヘンリー ストークスという英国人記者が書いた『連合国戦勝史観の虚妄』という本を読みました。著者はオクスフォード大学を卒業しフィナンシャル タイムズやニューヨーク タイムズの東京支局長を務めたこともあるエリートです。

彼は三島由紀夫との親交もあり、三島についての本も書いています。

この本の中でストークス氏が主張する最も重大な点は、先の大戦について日本の主張についても理があると認めていることだと思われます。その彼がこの本の序文で次のように書いています。

「いま国際社会で『南京大虐殺はなかった』と言えば、もうその人は相手にされない。ナチのガス室を否定する人と同列に扱われることになる。残念ながら、これは厳粛なる事実だ。だから慎重であらねばならない。だが日本が日本の立場で、世界に向けて訴え続けていかなければ、これは歴史的事実として確定してしまう。日本はこれまでこうした努力が異常に少なかった」

この真実の知日派は日本の「宣伝」の弱さを指摘しているのです。

実は日本が宣伝戦に異常に弱いとの指摘は英国人のストークス氏だけとは限りませんでした。少し例を挙げてみます。

フランス人の劇作家であるポール クローデルは大正時代の日本に駐日大使としてやってきます。その時にアメリカで日本からの移民を完全に閉め出す「排日移民法」が可決されます。その時のことが彼の『孤独な帝国 日本の1920年代』という本に書かれています。

「昨日の新聞に、日本がワシントンで行った抗議について掲載されています。予想通り、つたない表現です。まったくこの国民は、みずからの感情を表現して相手に知らしめることに長けていないのです。正義と平等という抽象的原則について述べていますが、まずい抗議の仕方です」

ちなみにクローデルはアメリカの「排日移民法」は日本に多大な「侮辱」を与えたとするどく観察し「とはいえ、直接アメリカに仕返ししようなどとは考えるべきではありません。朝鮮半島、そして大連の背後に、満州という新天地が開けています。しかし、この唯一の出口を除けば、日本の発展から余儀なくされる急速な需要を満たそうにも、いたるところ、もはや超えがたい壁が立ちはだかっているばかりなのです」と書いています。

このフランス人の劇作家は、アメリカの「排日移民法」から「満州事変」を想像したのでした。

日本が「宣伝戦」に弱いと指摘したもう一人の知日派を紹介します。アメリカ人のフレデリック ウィリアムズはジャーナリストとして日中戦争が起きる時代に日本にやってきます。彼は『中国戦争宣伝の内幕』という本で、日本人が多数虐殺された「通州事件」について書いています。

「世界はこれらの非道行為をしらない。もし他の国でこういうことが起これば、そのニュースは世界中に広まって、その恐ろしさに縮み上がるだろう。そして殺された人々の国は直ちに行動を起こすだろう。しかし日本人は宣伝が下手である」

ウイリアムズがこの本で訴えたかったことは、1930年代のアジアでもっとも脅威だったのが「共産主義」であり、日本はそれに対する「防波堤」の役割を果たしているという認識でした。

彼は日本が真珠湾攻撃を行った後に逮捕されるのですが、戦後に中国が共産化され、朝鮮やヴェトナムでアメリカが勝つことが出来なかったことを考えるとき、彼の先見性が認識できます。

イギリス人であるストークス、フランス人のクローデル、アメリカ人のウィリアムズ、彼らは皆日本の歴史や外交のあり方について同情的でした。特にクローデルやウィリアムズの将来に対する予測は神懸かり的なものがありました。

そんな欧米の優秀な人々が皆一斉に日本人は「宣伝下手」と語っているのです。

私が安倍総理の靖国参拝に一抹の不安を抱いたのがこのことです。果たして安倍総理は自己の行動を正しく「宣伝」できるのでしょうか。