前回で韓国が現在展開しているアメリカと中国を「天秤」にかける外交について書きました。今回はその続きです。

そもそも「天秤」外交とはどのようなものでしょうか。本当にそれは効果があるものでしょうか。

韓国と同じ民族の国である北朝鮮が中ソ対立時代に行った外交が参考になります。『二つのコリア』という本でオーバードーファーが次のように書いています。

「61年7月彼(金日成)はモスクワに行き、フルシチョフに『友好協力相互援助条約』を結ぼうと説く。そして分断の朝鮮半島でまた戦争が起きたら助けにきてほしいと懇願した。フルシチョフは金日成を反中国の仲間に引っ張ろうと狙っていた。合意が出来ると、金日成は中国に向かい中国指導者にモスクワと結んだ条約を示し、これに対応する条約を持ちかける。中国指導者らは応じ、朝ソ条約と同様の条約に署名した」

このように金日成は中ソ対立を利用し、ほとんど自分でコストを払うことなく有利な条約を勝ち取っています。同じやり方で北朝鮮はソ連や中国から膨大な援助を勝ち取ってもいます。

実はこの外交には重大な欠陥がありました。それは長期に渡って中国とソ連を天秤にかけることによって北朝鮮は中国からもソ連からも信頼されることにはならず、いつも猜疑心がともなう目で見られることが避けられなかったのです。

それが如実に現れたのは米ソ冷戦が終了した後でした。北朝鮮は朝鮮半島が分断された時から自国が正統な政府と主張していましたが、冷戦が終わるとロシアや中国は北朝鮮のことなどおかまいなしに韓国と速攻で国交正常化を果たしてしまうのです。

もう少し北朝鮮に信頼感があれば、中国やロシアが韓国を承認すると同時に日米が北朝鮮を承認するという政策を実行できたのでしょうが、それほどに天秤外交の害悪は大きかったのです。

もう一つ「天秤」外交の例を挙げておきます。韓国の前身である大韓帝国が日露戦争の時にやっていたものです。

渡邊惣樹さんの名著『日米衝突の萌芽』という本の中で、アメリカの外交官ストレイトが当時の大韓帝国の外交を記しています。

「朝鮮はことあるたびに二枚舌を用いた。彼らは東アジアで最悪の策士である。皇帝は十年にもわたって他国同士にいがみあいをさせてきた。ロシアと日本に交互におべっかを使ってきたのである」

「日露の戦いで日本が勝つたびに東京に特使を送りミカドに祝福の言葉を伝え、その一方で上海いるロシアのエージェントと緊密に連絡を取っていた」

「講和の成功を祝う特使をミカドに送る一方で、アメリカにだけでなくヨーロッパにも半ダース以上の特使を送り込み、日本がひどいことをやっていると訴えていた」

最後の「日本がひどいことをやっている」と訴えたのは、現在のパククネ外交との同質性を感じないわけにはいきません。

いかに大韓帝国の皇帝が日本のミカドに親書を送ろうとも、他の外国に悪口をいいふらす外交が信用されるわけもなく、告げ口をするたびに、第一次日韓協約、第二次日韓協約、第三次日韓協約と大韓帝国にとっては厳しい条約を結ばされる羽目になったのです。

つまり朝鮮半島の「天秤」外交は一時的にはコスト削減に効果を発揮しますが、結局は誰からも信用されず、孤立をもたらしてしまうのです。

現在の韓国がやろうとしているアメリカと中国を「天秤」にかける外交は北朝鮮が中ソ対立時に成功させたような可能性は存在します。

しかし長期的には、アメリカや中国に対して不信感を植え付けるでしょうし、海外で日本の悪口を言うことで日本の怒りをも買っています。結局この外交は韓国の「孤立」しか生まないのです。