佐藤優、手嶋龍一『動乱のインテリジェンス』の中に湾岸戦争のエピソードが書かれています。



イラクと多国籍軍が戦っている時に、イラクの空軍機が大編隊でイラン領空に姿を現し、イラン空軍の格納庫に入っていった事件が起こります。



この情報を最初につかんだのが、テヘランの日本大使館だったそうです。この情報はすぐにアメリカに伝わり、後に大統領補佐官スコウクロフト氏が「テヘランのアンバサダー、クニヒコ・サイトウは我が多国籍軍の代表部だ」とまで褒められたそうです。



しかし、この本をいくら読んでもなぜイラン側が、日本に情報を流した理由がはっきりしないのです。



そこで、ふと思いついたのが、昨日書いた「日章丸事件」のことです。



イランの人々は、今でも英米に潰された自由で民主的なモサデク政権を慕っており、そのモサデク政権と商売とはいえ、対等な関係を作ってくれた日本との関係を忘れていないのではないかという仮説です。



2010年2月17日のニューヨーク・タイムズにNassrine Azimiというイラン人と思われる人がJapan's Iran Momentという論説を書いています。これは当時の鳩山政権に対してイランの核問題や人権問題に対して積極的に日本が仲裁するべきだという内容なのですが、話の冒頭に「日章丸事件」について触れられています。



やはり、イラン人の心の中では、「日章丸事件」のように国際的孤立に陥っている時、日本だけが助けてくれるとのイメージを持っているのでしょう。だから湾岸戦争の重要なインテリジェンスを日本に優先的に流してくれたのです。



もちろん『動乱のインテリジェンス』の中では、「日章丸事件」について全く触れられていません。佐藤優氏は「当時のイラン大使だった斎藤邦彦さんはたいしたものなんですよ」と勘違いした発言をしています。



たいしたものは、「日章丸事件」を起こした出光佐三だったのです。我々は過去の偉人の遺産を食い潰して生きているみたいです。



ただ、一番残念なのは、イラン人の人々が期待するような国力が今の日本には無いということなのです。