『動乱のインテリジェンス』の中で佐藤優氏が北朝鮮とイランについて語っている部分があります。

「イランの核開発の目的は、イスラム原理主義革命の完遂にある。すなわちイスラエルをこの地図上から抹殺するという宗教的な信念に基づいているわけです。北朝鮮の核開発の意図は、イランとは明らかに違う。彼らを美化するつもりは全くないが、目的は明らかに防衛的です。」

この文章は、ほとんど佐藤氏の思い込みに過ぎないと私には思えますので反論を書いてみたいと思います。

イランでは不完全かもしれませんが、大統領は選挙で選ばれていますが、北朝鮮にはそんなものありません。

2009年のイランでの大統領選挙を簡単に振り返ってみましょう。再選を目指すアハマニネジャド大統領は、農村部や低所得者に基盤を持っていました。一方、都市部の住民は改革派のムサヴィー候補を応援していました。

選挙の結果は一応アハマニネジャドに軍配があがったのですが、ムサヴィー側は選挙に不正があったと訴えデモが広がります。これが俗にグリーン・リヴォリューションと呼ばれるものです。

政権側は、武力を用いてこれを鎮圧しようとしますがなかなか治まらず、宗教指導者のハネメイ氏が好きでもないアハマニネジャド側に立ったことでようやく静かになりました。

一体このような選挙をしておいて、どこに佐藤氏のいう「イスラム原理主義の完遂」があるというのでしょうか。

さらに欧米諸国は改革派のムサヴィー候補を応援していましたが、ムサヴィー氏は核開発について聞かれるとイランには必要だと答えています。改革派も結局はナショナリストなのです。

イランが宗教的情熱で一枚岩などという状態は、とっくに終わっています。逆に現在は国家が分裂して中心となるパワーが存在しないことが問題なのです。

このイランに比べれば、北朝鮮の方がはるかに一枚岩です。

この本で、佐藤氏が語っている中東情勢は、ほとんどアメリカのネオコンの思想と同じです。ネオコン達がイラク戦争でどれだけ嘘をついていたかは、ちゃんとした知識人だったらわかると思うのですが。