元NHKワシントン支局長手嶋龍一さんと元外務官僚の佐藤優さんの対談本、『動乱のインテリジェンス』を読みました。

面白いことは間違いありませんが、率直に言ってかなり違和感を感じる部分もありました。そこで今回は彼らがイランについて語っている部分を取り上げてみます。

彼らは、鳩山首相のイラン訪問に対してボロカスに言っています。

鳩山元首相はイランにたいして次のように言ったと佐藤優氏は語っています。

「イスラエルはNPT・核不拡散条約に加盟していない。したがってIAEAの査察を受ける義務がない。IAEAにしたって、他の疑惑のある国に比べて、イランに対してだけ、より厳しい対応をしているのはおかしいじゃないかと。これはダブル・スタンダードだ。」

この言葉を受けて手嶋さんは「イラン政府の他にはこんな主張をしているものはいない」と相槌を打っています。

鳩山元首相が、本当にこの通り言ったと仮定して、それは間違ったことなのでしょうか。

手嶋さんが留学したことがあるハーバード大学のスティーブン・ワルト教授のブログに書いてあったことを訳してみます。

「彼ら(イランのナショナリスト達)は、なぜインドやパキスタンが核を持つことを許されてイランには許されないのだと問いかけるだろう。また、彼らは他の核不拡加盟国には核濃縮の能力を認められて、なぜイランには認められないのだろうかと指摘するかもしれない。日本は多量のプルトニアムを保有し、おそらく数ヶ月で核保有国になれるのに、イランだけは世界で除け者にされることを彼らは世界や自国民に対して思い出させるかもしれない。そして、彼らはきっとイスラエルはなぜNPTにも加盟せず、ましてや大量の核兵器を保有しながら、アメリカの庇護や無条件の援助を受けられるか不思議に思うに違いない。」

ワルト教授は、鳩山元首相と全く同じことを指摘しているわけです。彼らは、こういう「不公正」なことに全く無頓着なようです。

さらにこの問題は以前にも書いたように戦前の日本にも関係してきます。

国際連盟事務次長をつとめたことがある杉村陽太郎の言葉です。

「米国が不戦条約にモンロー主義を留保し、英国もまたその重大権益の保護のため殆ど無制限の範囲にまで拡大しうる留保を附したのに対し、各国が別段意義を唱えぬのは、過去における英米の優越的地位に顧み、実際上はやむをえぬところと認め敢えて之を争わぬのであるけれども、日本が三国干渉の当時より21ヶ条時代を経て、今回満州に対する独占的地位を世界に向かって宣言したのはその変化が如何にも急激であると、日本の国際的地位が未だ英米のそれに匹敵せざるため各国としては直ちにこれに同感を表し得ぬところがあるのである。」

米国が戦略上重要なパナマ運河を保有し、イギリスが同じ理由でインドを保有しながら、日本が戦略上重要な満州を保有したら、それは侵略だと批判されたことへの不満です。

既得権を持っている側はそれを決して放棄しようとせず、自分のしたことを相手がするとそれを許さないというのが米国とイスラエルの立場なら、決して国際平和のためにはならないでしょう。