久しぶりに京都大学教授の中西輝政氏の本を読みました。タイトルは『迫りくる日中冷戦の時代』というものです。

この本の中で彼は現在の世界状況を次のように分析しています。

「第一に2010年前後から起こった全ての出来事が、アメリカの抑止力、覇権さらには、『世界大国としての意志力』がゆるみ始めたために発生しているということだ。・・・・・・
第二に、それと反比例するかのように、中国の力がこの10年で大膨張してしまったことだ。」

この頃よく中国が暴れ始めたのは、民主党政権が日米関係をボロボロにしたからだという議論を見かけますが、果たして日米関係がうまくいっていたら中国はおとなしくしていたでしょうか。

私は、中西教授がいうようにアメリカ自体の国力が弱ってきたという分析の方が正しいと思っています。

ではこの巨大な中国に対して日本はどのような戦略で対処していけば良いのでしょうか。

中西教授は結論部分で次のように書いておられます。

「日本が対中戦略で持っている最も有効な武器は、自衛隊でもなければ経済や先端技術でもなく、『人権、民主化』という大義の旗なのである。日本が、より鮮明にこの大義の旗のもとに進んでいることを示せば、日米安保が尖閣に適用されるかどうかをあれこれ気にすることもない。日本がこの大義の旗を明確に掲げる限り、アメリカは日本を守らざるをえないからである。」

私も中西教授がおっしゃる「人権、民主化」という普遍的なものを掲げて中国に対処することは大賛成です。日本がこれまでよく「宣伝べた」と言われてきたのも普遍的なことを大々的に掲げた外交をしてきたことがなかったからでしょう。クリントン国務長官が中国に対して「航海の自由」を主張したのは示唆的です。

ところで中国がここ10年国力を増大させたことは間違いありませんが、果たして中国はこのまま膨張を続けていくのでしょうか。

私は、そうは思っていません。

中国の近代史を眺めて思うことは、一歩前進したと思ったら必ず二歩後退しています。

辛亥革命で清朝が滅んだ後は軍閥の争いに陥り、毛沢東が中国の統一を果たしたものの、大躍進や文化大革命でボロボロにしてしまいました。

中西教授の本の中で、ロシアの中国観が書かれている部分があります。

「ロシア人は長期的な眼から『中国は大きな風船』にすぎないという確信を抱いている。つまり膨らめば膨らむほど針でついたら『すぐに潰れる国』と思っているのだ」

このロシアの中国観は鋭いと感じました。

最近起こった反日暴動でも、中国人は日系の工場を攻撃しました。これなども外資の投資で発展した国の自殺行動にしか思えません。

というわけで、中国がこれからも過大に膨張していく可能性はそんなに大きくありません。

日本は軍事的な抑止力を整えた上で、人権、民主化といった「普遍的」な言葉で中国に対処していけば十分です。