今回は鳩山由紀夫総理の外交を私なりに究明しようと思っています。
現在では、鳩山氏の外交は、せっかくまとまりかけた基地問題を台無しにし、日本にとって最も重要なアメリカとの関係を悪化させたルーピーだとの評論が定着しています。
しかし、この鳩山元首相に対する批判には私は納得できない部分があります。
オバマ大統領がchangeを掲げて当選したとき、アメリカの東アジア外交も画期的な転換が行われようとしていました。それが米中のG2論という米中のみで世界を運営しようとする試みでした。
孫崎享さんの『不愉快な現実』という本の中で、オバマ大統領が2009年11月の訪中時に「米中関係が21世紀を形作る。したがって、米中関係は世界でもっとも重要な関係である」と述べていたことが書かれています。
この時期、ハーバード大学のニアル・ファーガソンもチャイメリカという造語を作ってG2論を応援しています。
このような国際的な環境の中で、鳩山首相の政権交代が行われたわけです。
米中G2の枠組みが成功すれば、日本にとって良い面と悪い面があります。良い面はアメリカと中国との戦争が考えられなくなることです。その結果、日本にいる米軍を徐々に撤退させることが可能になります。
G2論の日本にとって悪い面は、米中が日本なしで物事を決定し、それを押し付けられる可能性があることでした。昔、小渕首相が、自分の選挙区について「ビルの谷間のラーメン屋」と称したことがありました。同じ選挙区に福田赳夫と中曽根康弘という大人物を抱える小渕首相が自虐的に語った言葉です。米中G2が成功すれば、日本が「ビルの谷間のラーメン屋」になってしまう危機があったのです。
鳩山首相の外交は、このような米中G2がうまくいくかもしれないという時に行われていたのです。
では、鳩山首相の東アジア共同体とは何だったのでしょうか。
これは、田中角栄の日中国交回復が、参考になります。ニクソン、キッシンジャーが日本の頭越しで米中の関係を修復した時、日本はこのアメリカの外交を黙認するつもりはありませんでした。時の首相田中角栄は、アメリカよりも先に、日中国交回復を成し遂げてしまったのです。
この田中の外交を見たキッシンジャーは、「裏切り者」と激怒したそうですが、そもそも最初に裏切ったのはアメリカの方なので、あまりその怒りを公にできない理由がありました。
東アジア共同体も、これと同じ効果がありました。アメリカが日本を無視して、G2という枠組みを勝手に作るなら、日本もアメリカを無視した東アジア共同体を作ってやるという、アメリカのG2に対する最高の脅かしです。
オバマ政権の国家安全保障会議の東アジア担当上級部長を務めたジェフリー・ベーダー氏はその著書で,「この構想は米国をこの共同体なる組織から除外することを意味しており、米国のアジアからの排除を示していた。アジアでの米国の最も緊密な同盟相手であるはずの日本がこんな米国追放の構想を打ち上げたことは、オバマ政権を仰天させた。」と書いているそうです。
鳩山内閣は無惨な最後をとげましたが、米中G2論はどうなったのでしょうか。
クリントン国務長官がASEANの会議で、南シナ海の自由通航の権利を主張したり、尖閣諸島の衝突事件でこれまたクリントン国務長官が尖閣諸島には日米安保が適用されると発言したりして、この頃はあれだけ盛り上がったG2も下火になってきました。
もちろんG2がうまくいかなかったように、アジア共同体もうまくいきませんでした。民主党の鳩山由紀夫元首相は31日、仙台市で講演し、東シナ海ガス田の日中共同開発に向けた交渉が停滞していることについて、「(鳩山政権の)後の政権で東アジア共同体構想が語られなくなり、尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件が起き、現在もこの案件(ガス田交渉)が立ち往生してしまっていることは極めて残念だ」と述べたことがすべてを語っていると思います。
結局、アメリカが同盟国日本を無視して米中G2論を提唱し、それに日本が東アジア共同体でお返ししたという構図でした。しかしながら、G2も東アジア共同体も現実の東アジア情勢にはうまく適応できなかったのです。
日本の保守派は東アジア共同体を掲げてアメリカと不和を招いたと鳩山首相を批判しますが、日本を無視してG2を掲げたオバマ大統領を批判しないのはアンフェアだと私は思います。
注ーここで書いているのは、鳩山首相が米国に対する反発から東アジア共同体を提案したわけではなく、鳩山氏の行動を現実主義的な観点から解釈しました。