今回は文春新書から出た森田吉彦著『評伝 若泉敬』の感想を書いてみたいと思います。

 若泉敬という人は佐藤栄作首相時代に沖縄返還のために密使を務めたことで有名ですが、実際彼の思想がどのようなものかこの新書を読んでだいぶわかるようになりました。

 故・高坂正堯京大教授が戦後の日本における外交思想を次のように語ったそうです。

 「現実主義=多数講話派=利害計算に基づく対米従属=『狡猾なナショナリズム』と、理想主義=全面講和派=対米従属継続の批判=『素朴なナショナリズム』の二つである。」

 この高坂氏の二つの区分の中で、若泉敬は「現実主義」に分類される知識人でしたが、それに対する批判精神も十分に持ち合わせていました。「核時代にはますます国民の毅然とした自主独立の精神が必要であるのに、歴代政権は『狡猾なナショナリズム』でアメリカに依存してきた」と書いているからです。

 また彼は「日本はGNP比2%程度の軍事力で自衛力を含む総合的能力を保持し、安保条約の主たる意味は『核の傘』に求められる。」と指摘するようにかなりの保守的な人物でありましたが、彼が他の保守的知識人と違うところは、国家の外交を積極的に行うためにはある程度の国民的なコンセンサスが必要であると考えたところにあると私は思います。

 国内で「狡猾なナショナリズム」と「素朴なナショナリズム」がいがみ合いを続けるなかで、強力な外交を支えることは不可能だからです。

 そこで若泉は「全方位平和外交」というリベラル派に転向したような外交パラダイムを提示したのです。彼はこの外交方針こそが日本の分裂を救ってくれると考えたのです。

 しかし、彼は保守の側からは裏切り者扱いされ、革新側からも疑いの目で見られるという不幸な目に遭い結局彼の案は日の目を見ませんでした。

 若泉の努力も戦後日本の「分裂」を癒すことはできなかったのでした。

 次回は若泉敬が超えることが出来なかった戦後日本の「分裂」はどのように治すことが出来るのかを考えてみたいと思います。
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