今月号の雑誌VOICEに春名幹男氏が尖閣事件について書かれていることが大変興味深くここに要約を書いてみます。

 従来アメリカの尖閣諸島に対する態度は春名氏によれば次のようなものだといいます。

 1、尖閣諸島は1972年の沖縄施政権返還以来、日本の施政権下にある、2、日米安保条約第5条は日本の施政権下にある領域に条約が適用されると明記している、3、したがって安保条約は尖閣諸島に適用されると明記してきた。

 ところが、尖閣事件の3週間前の8月16日に共同通信がスクープしたところによれば、アメリカ政府は1と2は明言するが、3の安保条約は尖閣諸島に適用されるという部分を自らは明言しないという政策に変更したというのです。

 春名氏はこの米国の政策変更が中国につけいるすきを与えたのではないかと指摘しています。そしてアメリカがなぜこのような政策変更を行ったかは「中国への配慮」だと指摘しています。

 尖閣問題が起こった後、アメリカは急に態度を変えて尖閣諸島は日米安保が適用されると言い始めたのです。

 私は、春名氏の論文を読んで朝鮮戦争の始まりを思い出しました。あの時もアチソン国務長官が朝鮮半島はアメリカの防衛線に入らないと言明したために、金日成が勘違いする原因を作ったのでした。

 この春名氏の仮説が真実ならば、もう一点重要なことが明らかになります。日本の保守派は尖閣事件が起きたのは普天間問題で日米間がおかしくなったからだと主張します。麻生元首相も『TVタックル』で同じことを語っていました。

 ところが、春名氏によれば麻生内閣がアメリカに尖閣諸島の見解を求めたところ、この時点で1、2のみだけ伝達され、安保条約は尖閣諸島に適用されるということは伝えられなかったのでした。オバマ大統領が尖閣諸島について言質を与えないという戦略は自民党時代にできたのです。

 私は、春名氏の議論の方が、「普天間問題で日米同盟がだめになった」論より有効だと思いますが、もう一つ可能性があります。それは「アメリカ張り子の虎」論です。

 普天間問題で日米間に緊張が走った時に、米韓同盟の方が円滑に動いているといいだす識者がいました。ところが韓国は北朝鮮に哨戒艦を撃沈され、挙げ句には島を砲撃され民間人に死者が出てしまったのです。いったい米韓同盟の「抑止力」は存在するのだろうかという疑問が頭に浮かんできます。

 この件で『産經新聞』に元国務省上級顧問ハルビーナ・ホワンという人が「米国の軍事力は北朝鮮による全面戦争や侵略行為を阻止しているが、限定的な挑発行為を思いとどまらせることはできていない。」と語っています。

 つまり北朝鮮の挑発には米韓同盟の「抑止力」は働かないと語っているのです。そうであるならば中国も尖閣諸島に手を出してもアメリカは出てこないと思っていても不思議ではありません。

 これが「日米同盟張り子の虎」論です。私はこの可能性も尖閣事件では捨てきれないと思っています。