近頃、経済学者のポール・クルーグマン教授が激しく中国の通貨政策を批判しています。つい最近もニューヨーク・タイムズのコラムで次のように書いていました。

 The Chinese government is keeping the value of its currency, the renminbi, artificially low by buying huge amounts of foreign currency, in effect subsidizing its exports. And these subsidized exports are hurting employment in the rest of the world.
(中国政府は人民元の価値を他国の通貨を買うことによって人工的に低くしている。それが中国の輸出を助けることになている。そして中国の補助された輸出は世界の雇用を奪っているのである。)

 ではクルーグマン教授が指摘するように中国が人民元を高くすれば、アメリカからの輸出が増え、中国からの輸入が減って、結果的にアメリカの貿易収支の赤字は改善するのでしょうか?これを経済学風に式であらわすとこうなります。

 1、輸出ー輸入=貿易収支

 ところが、中国が人民元を高くしてもアメリカの貿易収支は改善しないと主張する学者もいるのです。ポール・ケネディー教授やファリード・ザカリアなんかもそのようなコラムを書いていました。私が現在読んでいるThe Next Asia を書いたモルガン・スタンレーのエコノミストであるスティーブン・ローチも中国が自国の通貨を高くしてもアメリカの輸入は減らないと主張しています。

 なぜなら、中国が人民元を高くしてアメリカに対する輸出が減ってもそれは他の国からのアメリカの輸入が増えるだけだし、下手をすれば逆に中国からの輸入金額が増えるかもしれないと書いています。現在中国からアメリカに輸出しているのはアメリカ資本の工場だったりするからです。

 スティーブン・ローチは人民元を高くしても、アメリカの貿易収支が改善しない理由をこう説明します。現在のアメリカは消費が過大で、貯蓄が過小な経済である。そこで自国で供給するものだけではアメリカの消費はまかなえないから他国からの輸入が必要になってきます。だからアメリカが貿易収支を改善させたかったら消費を減らして貯蓄に回さなければならないというのです。これも式に直すと次のようになります。

 2、貯蓄ー投資=貿易収支

 1、2式両方とも恒等式なので数字を入れるとぴったり当てはまるのですが、説明の仕方は180度違います。1式の方の説明では悪いのは中国のほうなので、クルーグマン教授は報復関税みたいなものを求めています。しかし2式の説明が正しいとなると、悪いのはアメリカであり処方箋は貯蓄を増やす自己改革が必要になってきます。

 どちらの説明が正しいのでしょうか?次回、日本の経験をふまえて書いてみます。