鳩山由紀夫首相が以前「友愛」と叫んでいたのは皆さんもご存知でしょうが、この言葉は祖父の一郎がクーデンホーフ=カレルギーというオーストリア貴族の本から引用したものでした。

 実はこのクーデンホーフ=カレルギー伯爵の母親は日本人であり、なおかつ第一次大戦後にヨーロッパ統合を呼びかけるという先進的な考えを持つ人でもありました。

 すごく興味を引かれたので林信吾氏が書いた『青山栄次郎伝』を読んでみました。

 青山栄次郎の父親はオーストリア=ハンガリー帝国の貴族で、日本の赴任中に大使館でアルバイトをしていた骨董屋の娘ミツと結婚したそうです。結婚して生まれた次男が青山栄次郎でした。

 栄次郎が少年時代をすごした、オーストリア=ハンガリー帝国は他民族国家でした。第一次大戦直前になると民族間のナショナリズムに悩まされることになり、結局は第1次大戦で崩壊してしまいます。

 青山栄次郎が『パン・ヨーロッパ』という本を書いたのは1923年です。林さんの本から引用します。

 「具体的には、全ヨーロッパが加盟する同盟条約と仲裁裁判所を設け、相互に軍事的な脅威から開放されるようにする。さらに、単一市場と共通の通貨を導入することで関税障壁の問題を一挙になくし、少数民族を保護する政策をとったら、戦争の大義名分が生じなくなる」

 現在のEUを予見する素晴らしいアイデアです。この本はドイツ語圏で最初の一年だけで10万部も売れました。

 しかしながら、歴史とは一直線で進まないようです。

 世界大恐慌の後にヒトラーが出てきて、栄次郎とは正反対の政策を採るようになってしまいました。林さんは「ナチスの手で、書籍はもとより社内文書や帳簿類に至るまで、残らず奪われ、消却されてしまったからである」と書いています。

 しかし、歴史的に勝利したのはヒトラーの『我が闘争』ではなく、青山栄次郎の『パン・ヨーロッパ』だったのです。

 この本を読みながら、私の頭の中に全く別な人物の顔が浮かんできました。それは米ソ冷戦が終了する直前に『歴史の終わり』を書いたフランシス・フクヤマです。次回は栄次郎とフクヤマを比較した論考を書いてみようと思っています。
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