さて『金正日は日本人だった』によれば金策こと畑中理は明石元二郎大佐の系列にあったという。

 明石大佐は皆さんもご存知の通り、日露戦争時にロシアの政情不安を画策し、ドイツ皇帝ヴィルヘルムⅡ世に「明石元二郎一人で満州の日本軍20万人に匹敵する戦果を上げている」と讃えられた人です。

 この明石大佐は「大アジア主義」を掲げた玄洋社・黒龍会のメンバーでありました。この玄洋社に多数の運動家を輩出したのが、福岡藩の藩校であった修猷館で、これは現在の福岡県立修猷館高等学校になります。そして佐藤守元空将は猷館高等学校を卒業されたそうです。

 このように佐藤さんの考え方は一本の歴史の線で結ばれている訳です。

 ところで、アジア主義の問題点は今も昔も「中国」という国にあります。多くの日本人にとって何かと「ロマンチック」なアジア主義はいつも中国という「現実」に裏切られたという歴史を持っています。

 佐藤元空将は北朝鮮に対して「日本が積極的に関与して、継承を手助けし、三代目の王、金正雲に、核という貧者の兵器を放棄させ、平和裡に北朝鮮を開放させる。これは残置諜者、金策を送り込んだ日本の責任ではないのか」と書いています。

 日本が朝鮮半島の旧宗主国として北を手助けし、韓国との統一を平和的に導いてやればいいという提案だと私は解釈しています。しかしながら旧宗主国の責任ということなら、金策という仮説を用いなくとも、日本が真っ先に手助けするべき相手がいます。

 それは台湾です。しかし現在の日本が台湾の独立を後押ししようとすると、これはもろに中国とぶつかることになります。そこでアジア主義者は「台湾」の問題を何かと避けようとするのです。

 佐藤さんは現在の朝鮮半島の分断が固定化しているのはアメリカのせいだと思っているようですが、北朝鮮に食料や燃料を援助し、まがりなりにも国家として存続させているのは中国のおかげなのです。

 アメリカや日本は北朝鮮が核を放棄するためには中国の影響力がかかせないと期待していましたが、結果として中国は何もしませんでした。それどころかさらなる援助を与えようとしているのです。中国は北朝鮮を「聖域」として確保しておきたいのです。

 そんなところに日本がでていって統一のお手伝いをしようと思っても中国に迷惑がられるだけです。日清戦争以前の状況と同じ事になってしまいます。

 結局、現在の「アジア主義」の問題点は、昔ながらの「中国」という壁にぶつかってしまうのでした。

 それでも佐藤守元空将の『金正日は日本人だった』は随所にすばらしい分析を載せています。本を読んでいて思わずふきだしたりする経験などここしばらくなかったのでとても有意義な時間をすごさせていただきました。

 それにしても田母神氏といい佐藤氏といい航空自衛隊はかなりユニークなキャラクターを輩出する組織のようです。

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