元外交官の孫崎享さんも指摘している事ですが、アメリカでは世論調査をとる時によくエリートと一般人を区別してとることがあります。それだけ意識の差があるということでしょう。で、今回は冷戦後にアメリカのエリートがとった戦略を書いていこうと思います。

 彼らは冷戦の勝利を契機としてアメリカの覇権を永続的なものにしようと画策します。これを具体的に示すものとしてブッシュ(息子)大統領の国防副長官であったポール・ウォルフォウィッツがブッシュ(父)大統領時代に書いた文書があります。ニューヨーク・タイムズが「米国戦略計画はいかなるライバルも出現しない事を求める」というタイトルで報じられました。

 その内容を孫崎氏の『日米同盟の正体』から重要部分を引用すると、

 冷戦後の米国の目的は他の超大国の出現を許さない事

 この目的を十分なアメリカの軍事力で達成させる。

 集団的国際主義を排し、アメリカ単独でも行動できる様にする

 イラク、北朝鮮の核兵器所有を拒否するため軍事力の行使も厭わない

 日独の軍事力増強特に核兵器の所有を阻止

 この案はブッシュ(父)大統領の時代はあまりに過激だ、とお蔵入りになりますが、孫崎さんは「その後一貫して追求されることとなる」と書いています。筆者も彼の意見に賛成です。二つほど例をあげてみます。

 ブッシュ(父)はソビエトの脅威から作られたNATOは拡大しないとロシア側に約束していたのですが、クリントンはそれを無視してNATO拡大を実行します。ジョージ・ケナンは以前書いたようにNATOの拡大に反対したのですが、ジェファソニアンは相変わらず政治力が足りないためあっさり無視されます。

 ロシア側はNATOは解散しなくてもいいから、そのかわり全欧協力安保(OSCE)を再活用しようというまことに正当な議論をしていたのです。

 ちょうどこれと同じ時期に日本では細川政権が誕生していました。彼は冷戦後の日本の安全保障を構想する為にアサヒビールの樋口氏を座長とするグループに委ねます。(皮肉にも樋口リポートは村山首相の時に提出されました。)

 このリポートは冷戦後の日本外交を国連中心に運営しようとするもので、日米同盟の意義はそれよりも後ろに書いてありました。これをみたアメリカは日本がアメリカからは離れていくのではないかと危惧する事になり、ジョセフ・ナイという高名な国際政治学者が日米同盟の再定義(ナイ・イニシアティブ)を始めます。この結果が日米ガイドラインというものになります。

 ちょうどこの時、中国が台湾の選挙に干渉する為にミサイルを発射した後でしたので、日本の保守派は日米同盟が維持される事にほっとしました。ところがクリントン大統領はこの後日本によらないで中国に長期滞在し江沢民と一緒に日本を批判したことで、米国の目的は日本の保守派の目的とは全然一致していなかった事がわかりました

 このようにアメリカは冷戦後も冷戦中の米国主導の同盟関係を維持・拡大しようとしたのでした。

 続く

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