私がジョージ・ケナンの考え方を最初に知ったのは片岡鉄哉先生の『さらば吉田茂』を読んだ時でした。この本の中で片岡先生はケナンのことを次のように書いています。
「ケナンのいう力とは、イデオロギーの正反対であり、イデオロギーを抑止する要素である。彼はアメリカ外交の先天的欠陥である『十字軍戦争』を忌み嫌っていた。アメリカは、しばらくはケナンに耳を傾け、第2次大戦の無条件降伏という戦争指導方針を反省した。だが、また新しい敵を追って走り出す。そしてダニエル・ヤーギンのいう national security state になってしまう。だから封じ込めが新しい十字軍戦争に変容してしまった時、ケナンは失意のうちにワシントンを去る事になる。」
このように片岡先生は冷戦を「反共十字軍」というふうにとらえた訳です。そして冷戦が終わった後にアメリカはフランクリン・ルーズベルト以前のフーバー大統領時代のような「孤立主義」的なアメリカになると予想したのでした。彼は1995年にそういう理由から『退場するアメリカ』という本を書いたのでした。
しかし、2009年現在から振り返って、先生の予想は当たっていなかったと断ぜざるをえません。これから書く事はなぜ片岡先生が間違ってしまったのだろうかとの疑問にも答える事になります。
さて冷戦がおわって、しばらくして日本のバブルも崩壊してしまい、アメリカ大衆が海外に脅威と見なしていた存在がなくなります。そしてクリントン大統領の時代から最近までアメリカでは未曾有の好景気が続いていたのです。
ミードによれば、アメリカ大衆を代表するジャクソニアン達は「アメリカ政府の目的はアメリカ人の生活水準を守ることと確信しており・・・。」と指摘しています。ジャクソニアン達にとってクリントン時代から続いた好景気は実に満足すべきものでありました。
さらに、クリントン大統領の時代からしばしば言われていた事は、アメリカでの国際ニュースに対する需要が落ちていき、新聞の国際面が徐々に縮小されつつあるとのことでした。
アメリカの一般大衆が「孤立主義」になっていくとの片岡先生の予想は決して間違っていなかったのです。ところが、アメリカの大衆はアメリカが外国に膨大な基地を持っていることも一緒に忘却してしまったのでした。海外の米軍基地は彼らの生活に何の害悪も及ぼさなかったからです。そのことを利用してアメリカのエリート達はある計画を描きますが、これについては次回に書きたいと思っています。
そこに9.11が起こります。これによってジャクソニアンの怒りが頂点に達します。ミードが指摘した様にジャクソニアン達は国際法を破る事にあまり抵抗がありませんから、アフガニスタンだけでなくイラクをも血祭りにしてしまったわけです。(真珠湾=原爆という方式の有効性を示しました。)
ところが、ブッシュ(息子)大統領の終盤にリーマン・ショックから経済的危機がおこります。アメリカの失業者は10%以上に達します。この不景気に直接さらされるのがアメリカのジャクソニアン達です。どうもこの不景気はかなり長引きそうな感じがしますからアメリカの大衆の不満もつのっていきます。
これから日本人がアメリカで最も注目すべき事はアメリカのポピュリズムの爆発です。オバマ大統領は基本的に国際問題でも国内問題でも status quo (現状維持)の人ですから、このポピュリズムにどう対処するかが問題となります。現在私はオバマ大統領の将来を悲観しています。
次回は冷戦後アメリカのエリート達はどのような行動をとったかについて書きたいと思います。

お手数ですが、よろしくお願いします。