野口家墓所
野口小蘋の墓
明治期から大正期にかけて活躍した日本画家で、奥原晴湖とともに明治の女流南画家の双璧といわれた野口小蘋（のぐち しょうひん）は、弘化4年正月（1847年）、徳島出身の古医方松邨春岱の長女として大阪難波に生まれる。名は親子（ちかこ）。
幼少時から詩・書・画に親しみ才能を発揮した小蘋は、安政元年（1854）、8歳のときに四条派の石垣東山に入門し本格的に画を学ぶ。
文久2年（1862）、16歳の時に修行のため父と北陸を数ヶ月にわたり巡遊し、このとき福井藩の絵師島田雪谷から画の手解きを受けている。
しかし、旅の途中に父が亡くなり、残された母を養うため、慶応元年（1865）には近江八幡を遊歴して画を売っている。
慶応3年（1867年）、京都で関西南画壇の重鎮である日根対山に師事し、4年間山水画・花鳥画を学ぶ。この時、日下部鳴鶴・巌谷一六・長三洲・川田甕江や、実業家で煎茶好事家の奥蘭田など多くの文人と親交を結ぶ。「小蘋」と名乗るようになったのはこの頃からである。
明治4年（1871）から東京麹町で画業を本格化し、美人画や文人の肖像画などの人物画を多く手がけるようになり、明治6年（1873年）には皇后御寝殿の花卉図も手がけている。また、画業の傍らで岡本黄石に詩文を学んだ。
明治10年（1877）、31歳で野口正章と結婚、翌年に南画家となる娘の小蕙が生まれる。
野口家は滋賀県で酒造業を営む家柄で、義父は自身も漢詩を読む文化人であり、当時の一流文人とも交流があった。正章も小蘋が師事した対山の門弟である。
明治11年（1879）、一家は野口家の営業所があり、親交のある商家・大木家がいる甲府へ引っ越すが、その縁で、大木家の美術コレクション「大木家資料」（大木コレクション）には多くの小蘋作品が収蔵されている。
しかし、夫の正章が、手掛けていたビール醸造事業が頓挫して廃嫡となり、一家は明治15年（1882年）に再び東京へ引っ越すこととなる。
この頃、日本画の復興運動の広がりで小蘋は注目されていき、数々の展覧会で入賞し関東南画を代表する画家となる。
その後、皇室や宮家などへ多く作品を納めているほか、明治37年（1904）に女性初の帝室技芸員を拝命、明治40年（1907年）には文展審査員にも選ばれている。
大正期には山水画を多く手がけ、大正天皇即位に際して御大典祝画屏風「悠紀殿屏風」を献上。大正6年（1917）に71歳で亡くなっている。
青山霊園 1種ｲ21号12側