秀晴と共に、反町殿の住む町に行ってきた。
車で約2時間である。
秀晴と県外に出るのは初めてのこと。
田舎在住ということは聞いていたし、彼の住む町への行程である高速道路はのどかな町並みが続き、いつも空いているイメージ。
運転が苦手な私でも、ゆっくり安全運転なら行けるだろう。
県外ということもあり、小旅行気分で私から
『前回来て頂いたので今回は私が行きます。』
と述べたのだ。
てなわけで…2時間かけて反町殿の住む街に無事到着したのだが。。。。
本当に軽くブラブラするようなところが何もない。
この町に住むオトナの恋人達は、一体どこをどうやってデートするんだろう…と思った。
そして反町殿は『遠方から来てくれる女性の為にどこか観光スポットにでも』と計画したり、考えるような気の利いた殿でもない。
洋食屋でランチを食べ、ドライブし、海に行った。
サーフィンが趣味…とのことであるので5ヶ所くらい海を回った。
このように書けば
『え、別に悪くないじゃん』
と思われるであろう。
そう。このように書けば…である。
到着早々、待ち合わせた場所から程近いコインパーキングに秀晴を停め、反町殿の車に乗せて頂いたのだが…
いかんせん車が汚なかった。
10年ほど前に生産終了になった車で、実は秀晴購入の際、私も候補に上がった車ではあるのだが…
綺麗に乗ればとても良い車なのに、サーフィンをされているからなのか車内は異様なくらい汚れ、車外ではなく車内があちこち傷だらけだった。
紙煙草を吸われるので煙草の匂いが充満し、灰皿もパンパン。
そして…
車は走る度に軽く異音がし、エアコンの吹き出し口から終始煙のような冷気が出ていて、吹き出し口付近は汗をかいていた。
『なんか、冷気が湯気みたいに出てますけど大丈夫なんですか??』
と思わず聞いてしまったほどである![]()
そして…本題はここからである。
とある海岸の展望スポットに車を停め、海を眺め出発しようとバックした時…
なんと反町殿は停まっておる別の車に
『ゴン!』
とぶつけてしまったのだ![]()
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秀晴はバックカメラがあるし、衝突安全センサーが何かにぶつかりそうになると危険をお知らせしてくれ、勝手に自動ブレーキがかかる。
それに慣れてしまっておる私は
「あ、こういう事もあるんだな………」
とひどく冷めた頭で思った。
『ぶつけてしまった。。。』
と反町殿は慌てて車を下りた。
ぶつけられた人は家族で、みんなで海を眺めていたのでもちろん車のすぐ近くにいた。
鬼のような形相で持ち主である方が近付いてきて、警察を呼ぶ事態に。
私も「同乗者」ということで免許証の提出を求められ、電話番号やら職場やらを尋ねられた。
『ごめんよ…』
と反町殿は謝ってくれたが、完全にケチがついた気がした。
15分ほどで事故処理は終了し、その後反町殿が保険屋に電話をかけて、ひとまず気を取り直して再度別の海へ。
事故のせいなのか、汚い車のせいなのか、海しかないこの町のせいなのか、反町殿自身なのか…
『好きになれるかも』
という気持ちが少しずつ萎えていくのが分かった。
少しずつ日が暮れ、薄暮の中、車内から海を眺めておると反町殿が手を繋いできた。
イヤではなかったが、嬉しくもない。
ただただどうしたらよいのか分からなかった。
グッと反町殿が身体を寄せてきて、キスをするような体勢に入ってきた。
私は
『すみません…』
と告げ、
『今日はそろそろ…』
と、彼に帰宅をうながした。
『うん。そうしよっか。これからまだ運転しないといけんもんな!』
と言われ、コインパーキングまで送って頂いた。
秀晴に乗ると脱力した。
『秀晴ぅっ!』
決して新しくはない。ピカピカの新車でもない。
めったに乗らず、たまの運転ではまごまごしてばかり。だが…こまめに洗車に行き、常日頃大切にしている秀晴。
そんな愛する秀晴の車内は快適で、私は来た道を2時間かけ、帰路に着いた。
反町殿からは
『また次回はある?』
と聞かれ、その時は『はい。』と返事をしたが…
たぶんもうないであろう。
『嫌なことをしてごめん。』
とも謝ってくれ、1日一緒にいて人柄も良い人だとは思ったが……
片道2時間かけて会いに行く程、私はきっと、彼という人を好きにはなれない。
距離というのはやはり大切で、『好き』という原動力で遠距離であるリスクを乗り越えていける。
だがそのリスクを吹き飛ばすほどの気持ちを、私は彼に対して持てないな…
恋愛に現実味が持てない。
と感じた1日だった。
あちらがどう思っているかより、まず自分の気持ち。
それを大切にしなければ…と、そう思うと…
『秀晴、私はアンタがいてくれりゃそれでいいよ
いつもありがとねン
』
と、秀晴のハンドルにブチュっと口づけし、これまた一番現実味のない恋に身を投じる私なのでありました![]()